第一話 〜真月の血編 其の壱〜■ 第一話 〜真月の血編 其の壱〜■


All human existing in the world. Hear a voice of God.
神が天より光を降り注ぐ。
この光が、全てを育てる源となる。

神が天より雨を降り注ぐ。
この雨が、全てに潤いを与える源となる。

神が天から何も降らさない。
人の子よ、幸福は自分の手で掴みなさい。
                       Ustegnihs.T.Trans
Where does the world begin to move towards? What does the world plan? All began from here…….
All truth on darkness. You yet know nothing.
Let's tell all truth here.



 いきなりで悪いのだが……真っ暗だ!!! 時空の歪と言うのはこんなにも暗いところなのか!? 正直微妙に怖いぞ。
「なぁアデリア? ここには明かりみたいなものはないのか?」
「もう少し行けば光が見えてくる。しかし、それはまだ出口ではない。大体このペースで歩いていると生物が感じる時間で
10時間くらいかかるだろう」
 そう言ってるそばから明るくなってきた。これがアデリアが言っていた光か。
 ……と言うかちょっと待て。生物が感じる時間? 何だそれは? いまいち良く分からんぞ。
「生物が感じる時間と言うのは何なんだ?」
「そのままの意味だ。生物が感じる時間だ」
 アデリアは天然なのかそれとも……馬鹿なのか?
「あのな……そう意味ではなくてだな。普通そんな言葉使わないだろ? 何か意味があるんだろ?」
「そういうことか。簡単に説明すると、この時空の歪には「時間」がないのだ」
 また簡単にか……。しかもそれが簡単でないから辛いよな……。
「前にも言ったが、これからは簡単でなくていいから、しっかりとした説明をしてくれ!」
 これくらいハッキリ言わないとこんなことが続きそうだからな。
「わかった、心得ておこう。では説明に移る。さっきも言ったとおり、ここには時間と言う概念が存在しない。
まあ、時計が止まっているようなものと思えばいい。その時計が止まっている時間にも行動ができる、こういった感じだ」
 う〜ん……分かったような分からないような……。羽衣も頭を抱えていた。まあ要約するとこういうことになるらしい。

 ……この時空の歪はどの次元にも属さない。ゆえに次元にしか存在しない「時間」がないらしい。
 当然、移動時間もなしと言うことになる。……俗に言う瞬間移動と言うことになる。しかし、そこにいる生物は当然その場に
存在している。
 この場合俺達だが。俺達は今こうして動いている。だが時間は動いていない。そこに矛盾が生じてしまうらしい。
 普通に考えれば、動く(生きる)には時間が当然のごとく必要になる。
 だから時間がないところには生物が存在しないという結論にも達してしまう。
 だから時空の歪での時間のことを、「生物が感じる時間」と呼んでいるようだ。しかし時間についてはいまひとつ確信がないらしい。
 どうしてどの次元にも属さないのか? 時間と言う概念とは何なのか? 研究はまだまだ続くようだ……。

「難しいんだな……。何か分からないことだらけだ……」
 少し自信がなくなってしまった。たぶん学校の勉強じゃ一生習わないんだろうな……。
 羽衣は分かったのだろうか? いろいろあったからな、たぶんついてこれてないだろう。まあ俺自身がそうだから……。
「大丈夫だ羽衣。俺にも今のところまったく分かっていない。とりあえず言えることは……時空の歪にいる! それだけ!」
 う〜ん、あまりにも……かわいそうな俺。でもくじけるながんばれオレ〜!! とりあえず前向きに行こう。
「え〜と、取り合えずだ。この10時間(生物が感じる時間)と言う長〜い時間を使って状況説明なんかをしてもらえると助かるのだが」
「そうだな。この時間を有効に使わなければな」
 これから、争いを止めに行くのだからある程度の状況が入ってないと行動しようにも行動できないからな。
「今から考えて一ヶ月前……事は起こった。その夜は滝たちが見ていたような満月が出ていた。
それが突然暗くなり出して、月を覆ってしまったんだ。今考えると滝たちが体験したことと同じ事と言うことになる。
自分達に重ね合わせるといっそう理解ができるだろう。そして時空の歪が現れた。その時点でわれらは時空の歪の研究はしていたが、
実用にはいたってなかった。その時空の歪から出てきたのが、魔界の王……ラグーン!!
その後すぐに数え切れないほどの魔物が出てきた。当然軍隊の人間や戦えるものは戦った。しかし……、
状況は一方的に不利。このままでは負けてしまう。そこで、この状況を打破できる方法がないか探った。
そこで見つけたのが、真月の血。これは昔の文献に載っていたのだが……、

真月の血を受け継ぐ者 その災いから逃れるべく必要とした最終手段

この一言が記されていた。それを見てすぐさま真月の血を受け継ぐ者を探した。……しかし、真月はすでに亡くなったと知った……。
そこで、時空の歪から真月の血を受け継ぐ者を捜すことにしたのだ。
時空の歪が発生するのは、一定の条件を満たしたとき……すなわち満月にその要素があることが分かった。
それがちょうど今夜だったというわけだ。しかしこうも早く見つかるものとは思わなかった。滝には感謝している。
もちろん、羽衣にも感謝している。……今話せるのはこんなところだ」
 なるほど……それで俺のところに来たと。はじめから俺の家系に用があったということになるのか。
 でも待てよ……俺一人より、俺の家系を全員呼んだほうが良かったんじゃないのか? そのほうが可能性は高くなるし……。
「それでは、駄目なんです。そうできたほうが確かに効率がいい。しかし、血縁は濃いほうがいい。その反応が滝から感じられたのだ」
 そんなのいつ調べたんだか。まあそれはいいとして、俺が一番真月の血が濃いということになるのか。
 今までそんなこと考えたことはなかったけど、俺が昔から叔父の習っていた剣道は……」
 いや……今はとりあえずいいか。なんにせよ今俺はここにいるのだから、できることからしていこう。
「質問があれば何か聞くが何かないか?」
「取り合えず、俺達がいた世界で起こったことについてわかる範囲でいいから聞かせていほしい」
 もともと俺と哲哉で解決しようとか何とか言ってたんだからな。俺だけでも解決に近づいてやる!
 ……と言う理由ではなく、不快な死だったし、この事に関わっているかもしれないから知っておいたほうがいいだろう。
 これがホントの理由だ。ホントにホントだぞ!?
「その屍を見たわけがないからハッキリはいえないが、滝の話を聞く限りではラグーンの関連だろう」
 やはりそうなるのか……。でも自分の喉を掻き毟ることなんてあるのか?
「……そういった病気がある。だが……あまり詳しくは説明できない、医者じゃないから」
 病気……自分の喉を掻き毟る病気? 信じられない……。
「しかし……その人は病気があったような人じゃなかったんだ。病院にも通ってなかった。ちなみに薬物反応もなかったらしいんだ」
「う〜ん……薬物でもないか……すまない。今はこれ以上のことは分からない。すまないな、滝」
「ならしょうがないさ。またこの世界にいる間に少しずつ真実に近づいて見せるさ。」
 これは俺なりの決意なのだろうか? でも気になる事件であることは確かだし……まぁ取り合えず今は忘れよう。
 これ以上詮索しても分からないことだからな。
「羽衣は聞きたいことはない?」
 アデリアが羽衣に話を促す。
「あの〜私にできることはあるんですか?」
 そうか、羽衣は真月の血を引いているわけではないんだった。
「羽衣には……魔法の素質がある。それを伸ばして行きたいと考えている」
 魔法? アデリアの世界にはそんなものが存在しているのか。でも、羽衣にそんな資質があるとは……これもいったい
いつ調べたんだか。
「私に魔法? 魔法なんて存在してるんだ……。でも〜私にできるならがんばるよ〜」
 相変わらず、とろい声だなオイ。もう少し緊張を持ってもいいんじゃないのか?
「最後にもう一つ質問する。俺はどうやってラグーンを倒せばいいんだ? 実際に戦うのか?」
「実際はそういうことになる。滝はわれわれがラグーンをひきつけている間に、攻撃を入れてもらえればいい。それで勝てる!」
 案外簡単な説明だった。用はアデリアたちが劣りになったいるうちに俺が奴をさす。そういうことらしい。
 ホントにそれで勝てるのか? 相手は魔界の王なんだろ? そこまであっさりはやられてくれないだろ……」
「大丈夫。その辺はぬかりない。準備も整っている。後はその現場に向かうだけなのだ」
 なるほどね……。そのあたりはアデリアに任せろということね……まあ一応納得しておくか。

 そうしているとまた視界が暗くなった。アデリアが言うには入ったときと同じことらしい。入るときが暗いなら、出るときも暗い。
 ホントにわかんないとこだな、時空の歪と言うのは。しかもなんかこれは奇跡の近い状況らしいし。
「出口だ! 出るぞ!」
そう言われて外に出た。そこは……なんとも美しい森の中だった。……ここで戦争が起きているのか?
 しかしそんな気配はまったくない。どういうことだ?
「戦争なんてどこでやってんだよ? そんな気配ないじゃないか」
「ここは別の場所だ。戦争の真っ只中で時空の歪を出現させるなんて事できるわけがないでしょ?」
 確かにそういわれてみればそうだな。危ないもんな。
「では、まず探し物がある」
 探し物? 何だそれは武器か何かか?
「ぺ……ペット……」
 へ〜ペットか……ペット!?
「違う! 訂正だ! 使い魔だ! 使い魔!」
 何でそんなに熱くなんだよ。俺そんな熱くなるようなこと言ったか? もしかしてペットを気にしているのか?
 ……アデリアが俺をにらんできた。怖いので誤ることにした。俺は悪くないのに……。
「それでペッ……使い魔はどんな奴なんだ? 早く探そうぜ?」
 またもや睨んできた……はぁ〜。
「さっき猫がいたでしょ? あれが私の使い魔の種族とおんなじなわけ」
 さっきの猫が……ちなみにさっきの猫と言うのは時空の歪から出たときに目の前にいた猫だ。すぐに逃げて行ったけど。
 そうこうしている内に、探すことになった。その猫はエナレイ族と言う種族らしい。聞いたことない。
 この次元の新種か? よくわからないがとりあえず探すか。その猫にはリングがついているらしいからな。すぐ分かると いっていたが……。
 この森は広すぎるだろ!! 行けども行けども草や木ばっかりじゃないか! まぁ森だから仕方ないかもしれないが。
 見つけられるのか? アデリアはどっかさがしに行ったし、羽衣はアデリアについていったし俺は俺であっちを探せとか言われるし。
 ここの土地勘なんてまったくないのに……はぁ〜かったる……。
「おっ! あれは……もしかしてそうじゃないのか?」
 さっきの猫と同じ感じだし、リングを付けてるし取り合えずアデリアを呼んでくるか。

「お〜い! アデリア、向こうにそれらしき猫がいたぞ」
 そしてアデリアと羽衣を引き連れて猫のところまで行くと……そこには猫はいなかった。
「滝、どういうことだ? いないじゃないか?」
 確かにここだったよな……うん、間違いない。確かにここにいた。移動したのか? それでもそんなには遠くに行ってはないだろう。
「俺が見てからそんなに時間はたってないからまだこの辺りにいるかも」
 俺たちはまた別れてさが……そうとしたら、アデリアに呼び止められた。いったい何なんだ?
「滝と羽衣にこれを渡しておこう」
 そういうと手を合わせた。なんかのお祈りか? そういっているうちに何かを唱え始めた。まさか魔法って奴か!?
 何いっているのかはわからないが、少しずつ先が見えてきたぞ。アデリアはたぶん……何かを作っているのだと思う。
 おそらく……剣と杖! たぶん俺たちの武器にと言う考えなんだろう。これから敵と戦うことになるかもしれないからと言うことか。
「剣と杖だ。ここから先は正直危険だ。お互い武器は持っておいたほうがいいと思う。羽衣は先ほど教えた魔法も有効に使え。
素質が十分だからすぐにでも実戦で使うことができるだろう」
 俺がいないうちに魔法を習っていたのか羽衣は! ちょっとうらやましいぞ……。
「武器を渡したということはこの先に魔物や敵がいる可能性が?」
 無言でうなずく。羽衣はすでに知っているようだった。魔法を教わったときに一緒に聞いていたんだろう。
「でも滝ちゃん、この森は危ない魔物はいないって言ってたから大丈夫だよ」
 そうなのか。なら何気に安心だな。じゃ猫を探すか。
「……ちなみになんだが、猫の名前を教えてくれないか? 俺はまだ聞いてないんだが」
 先ほどから名前が出ていないのにお気づきですか皆様?
「言ってなかったか? 名前はアリアだ。よろしく頼むぞ」
 羽衣は知っているように笑った。きっとペットなんだろうな。まぁアデリアは怒るだろうから言い出せないが。みんなもう
知ってるよ……。
 そういって俺たちはまた分かれた。森の奥へどんどん進んでいく。当然ながらどんどん薄暗くなっていく。
 カサッ!!
 草むらの中で何かが動いた! 影が奥の方へ消えていくのが見えた! あれは……たぶん人の影だ。二本足でたっていた。
 この次元に人間以外に二本足で動ける生物がいるなら選択儀は増えるのだが。取り合えずアデリアたちと合流して、
このことを伝えよう。
 そう思って振り向いたとき、妙な感覚を感じた。何だこれは? 今まで感じたことのないような……変な感覚だ。
 俺の六感が何かを感じたのだ。アブナイ! ニゲロ!
 そんな感覚に襲われる。……早く逃げたほうがいいのだろう。逃げよう、逃げてアデリアたちと一刻も早く合流をしよう。
 そう思い一目散に来た道を走り出した。しかし、俺の六感はまだ何かを感じ取っている。ニゲラレナイ!
 ヤバイな……ここであきらめたら終わりな気がする。何とか逃げよう。それしか方法がないのだから……。
 俺は今までに見たことないようなスピードで走った。生きるために……懸命に!!
「アデリア! いるか! いるなら返事をしてくれ!!」
 精一杯声を上げる。頼む……近くにいてくれ!!
「……滝ちゃん! どうしたの!?」
 前から羽衣とアデリアが走ってきたのが分かった。そう思った瞬間……。
 ガァーーーーーッ!!!!
 明らかに俺を襲ってきた鳴き声だった。わずかにしか聞こえなかったが、先ほどからこんな鳴き声を上げていたのだ。
 俺はあろう事かこの場面でこけてしまった。目をつぶり歯を食いしばった……もう駄目だ……。
「滝! 何をしている早く離れろ!」
 目を開けるとアデリアが戦っていた。俺はあわててその場を離れ羽衣のそばに行った。
「いったん引くぞ! 滝、羽衣そのまま西に走れ! 私もすぐに追いかける!」
「だ……だけど!!」
「私を信じろ!! ……仲間なのだろう!!」
 仲間……仲間は助け合うものじゃないか!? ……しかし、今の俺には何もできない。助けることができない。
「すまない……絶対に来いよ!」
 そういって羽衣の手を取り走り出した。

 ……5分くらいだろうか? 走りに走り続けた。もう奴は追ってこないみたいだ。しかしアデリアはまだこない。
 やられた? いや! アデリアは来るといった! 信じてやれなくてどうする!
「ねぇ……滝ちゃん……私たち……アデリアの役に立たないのかな? 戦うことできないのかな?」
「…………」
 俺は無言になってしまう……。ここには争いを止めるべくしてきたのに……俺はこのまま腰抜けのままなのか!?
 それじゃあ駄目だ。約束したんだ。争いを止めると! 羽衣を守ると! 世界を守ると!
「羽衣……ここに俺は誓う……もう逃げない……約束を果たす!!!」
 この次元に来て初めての誓い。これからも誓うことがあるかもしれないが……これは俺にとって絶対のものになるだろう。
「私も誓う。アデリアを助ける。滝ちゃんを助ける! そのために来て、魔法も教わったんだから!!」
 ……俺たちは誓い合った。
 目を閉じ……手をつなぎ……空を向いた……この誓いを忘れないように……。
「行こう……アデリアのところに戻ろう! 俺たちが……助けるんだ!!」
 羽衣は相槌を打ち、ともに走り出した。
 助ける、助ける、助ける! そんな言葉が俺の頭の中を何度もよぎった。俺達はアデリアに助けられた。だったら今度は
俺たちの番だ!
 俺達は今来た道を急いで戻った。アデリアは……居た!
「アデリアー!」
 俺はアデリアから貰い受けた剣で奴に切りかかった。だが、あっさり交わされた。しかし奴は隙を作った。
「滝ちゃん、行こう!」
 羽衣の合図と共に、俺はアデリアの手をとり走った。

「もう追ってこないな……ふぅ〜」
 俺がため息をついた途端に、アデリアは手を振り払った。怒っているんだろうな……。
「どういうことだ! 逃げろといったではないか!」
「……俺たちは仲間だ。助けるのが当たり前だろ? アデリアは俺たちを助けてくれた。そのお返しだ。おかしいか?」
 アデリアは唖然としていた。たぶん馬鹿だ位は思っていいるんだろう。
「……ありがとう」
 意外な言葉が返ってきた。しかもその声はとても優しい声に聞こえた……。アデリアは……優しい奴なのだ。
「よし! それじゃあ奴の攻略法を考えよう。何かあるはずだ」
 俺は率先して議題を持ち出した。もたもたしているとまた奴が襲ってくるかもしれないからな。
 ……しかし、あんな大きなものにかつ方法があるのだろうか。言い出したのは俺だが自信がない。その時アデリアが口を開いた。
「奴は……アリアだ!」
 アリア……アリア……!! アデリアの使い魔か!? しかしアデリアの話ではエナレイ族と言う猫じゃないのか?
 あれは明らかに魔物だぞ!? アデリアは魔物を飼っているってのか!?
「少し間違っている。あれはアリアだが……何者かによって操られている。ハッキリと確認はできなかったのだが、
背中に何か黒いものが見えた。以前はなかったものだ。もしかするとそれが受信機か何かなのかも……」
「なるほど……あっ! だったらその受信機を壊せばいいんじゃないの? それなら私でもできそうだよ〜」
 お気楽と言うかなんというか……それができていたら誰も苦労はしていない。
 受信機をとる方法か……う〜ん、何かないか……考えろ……考えろ……考えろ……あっ!!
「そういえば、俺がアリアを探しに行った時なんだが、怪しい人の影を見たんだ。あ〜人かどうかは分からないけど、
二本足で走っていた。もしかすると何か関係があるんじゃないのか? 逃げるように走っていったし」
「……もしかするとラグーンの手下の可能性があるかもしれない。だとしたらそいつが黒幕と言うことになるわ」
 なるほど、ラグーンの手下か。可能性はあるな。この世界を乗っ取りに来たみたいだから。そいつの持っている発信機を壊すか……。
 だとすると……そいつを追うほうがいいのか? いや……いる場所が特定できない。
「場所が分からないならどうしようもないよ?」
 確かに羽衣の言うとおりだ。でも……なにか、何かあるはずだ。
「やっぱり、アリアについている受信機を取り除くしかないか……」
 でもどうやって? 奴はデカイ。今の俺たちが立ち向かってもたぶん勝てないだろう。何しろ俺と羽衣は戦いなんて初めてなのだから。
「私に策がある。そのためにはみんなにも戦ってもらう必要がある。……できる?」
 俺と羽衣は同時に頷いた。当然だ。俺たちは先ほど誓った。それに迷いはなった。
「では説明しよう……」
アデリアの説明はこうだ。

 まずアデリアが注意をひきつけて、そのうちに羽衣が奴の体に対して一定時間麻痺してしまうという魔法を使う。
 そして麻痺したところに俺が後ろに回りこみ、剣で受信機を壊す。いたって簡単な作戦だ。

「……こんな感じだ。理解できたか?」
 内容自体は簡単だったのですぐに理解はできた。しかし、俺は不安だった。きわめて簡単のように思えるが、俺と羽衣は初心者だ。
 もし……失敗したら…………やめよう。そんなことを考えるのはやめよう。成功する……いや、成功させる! そう信じるんだ!
「そうと決まったら、レッツゴ〜だよ〜」
 羽衣はまたそんなふゅにゃ〜とした声を出して……でも今はなんだか癒されたような気がした。感謝感謝♪
「よし……行こう!」
 俺と羽衣は同時に頷く。初めての戦闘……やるっきゃないよな!
 俺たちはアリアのいる所まで走った。しかいその場所に到達するまでにそんなに時間はかからなかった。
 なぜなら……奴もこちらに近づいてきたからだ!
「来るぞ! 滝、羽衣! 構えろ!!」
 アデリアの声にあわせていっせいに構える。あわてるな俺……あわてるな……できる……できる……クールになれ……。
 そして奴のほうを向いた。これは……。
 その光景は日常でも何気に良く見ている光景に似ていたのだ。どこで見た? いや俺たちのいた場所には魔物はいない。
 と言うことはどこで? 夢? いや違う……。もっとハッキリと何度も見ている…………あっ!!!
 そうか!! ゲームだ! ゲームに似ているんだ。俺がやっているゲームには良くこんな戦闘の場面が出てきていた。
 よしこれなら……いける!!!
 俺は一歩下がる。作戦通りにアデリアがひきつけるまで待つ。……しかし、奴は予想外の行動に出てきた。
 ……羽衣を狙ってきたのだ!
「羽衣! 危ない伏せろ!」
 とっさに羽衣のほうに走って行き羽衣を弾き飛ばす。その瞬間、腹に言葉では表現しようのない衝撃に襲われる。
 たぶん奴の攻撃が直撃したのだろう。こういう場合どうする? ゲームではどうしていた? 思い出せ!
 ゲームとはいえこういった展開は何度もあったはずだ。乗り切ってきたはずだ!
「滝!!」
「滝ちゃーん!!」
 アデリアと羽衣の声がする。俺はまだ意識があるっつてことか! 体は……動ける!
 俺は勢いよく飛び起き、後ろにバックステップして3歩ほど下がる。俺はバックステップなんてできたのか……。
「はぁ……はぁ……」
 息遣いが荒いのが分かる。しかし躊躇もできない。さっきの作戦は失敗に終わったと考えるのが妥当だろう。どうする……考えろ!!
「羽衣! お前は魔法を唱えろ! アデリアはそれの援護を頼む!」
 俺はとっさに叫んだ。俺は何を考えた? いや何も考えていない。体が勝手に動いているのだ。
「何か策があるのか!?」
 アデリアの声が返ってくる。俺は頷く。ホントは何の策もない。でも……なぜか勝手に体が動くのだ!
 まもなくして羽衣の呪文のような声が聞こえる。よし……あとは……。
「アリア! こっちだ! 俺が相手だ!」
 俺は何を言っている!? こいつと戦うのか!? 先ほどの衝撃の持ち主だぞ!? しかし俺の体は言うことを聞かなかった。
 頭で考えるより体が先の反応してしまうのだ。なら……やるしかない! ゲームの感覚を思い出せ。同じ……同じ……ゲームと
同じ……。
 アリアはこちらに向かって突進してきた! 真正面! なら!
 俺はアリアの攻撃が当たる瞬間……!! サッ!!
 俺の動きとは思えないほどの切れのよさで……アリアの攻撃をかわした!
「羽衣! いまだ!」
 羽衣の魔法がアリアに直撃する。アリアは明らかに挙動不審になっている。これが魔法の効果ということか。
 俺はその瞬間を見逃さなかった。アリアの背後に回り……剣を振り上げ……勢い良く……振り下ろす!!
 ガキーン!!
 金属音とともにアリアの後部についていた金属の塊が転げ落ちる。これが受信機だったのだろう。
「や……やったのか?」
 アリアは動かない。ピクリともしない。もしかして……そう思ったときアリアの体から閃光が放たれた。
「「「うわっー!!」」」
 俺たちは仰け反ってしまう。一瞬何が起きたのかわからなかった。でも目を開けたとき目の前にいたのは……。
「これが……アリア?」
 そう……猫が目の前にいたのだ。これは俺が見たエナレイ族と言う猫だ。間違いない。
 ……今まで戦っていたのはアリア……目の前にいるのはエナレイ族の猫……ということは……アリア?
「アリア!」
 アデリアが駆け寄る。アデリアがそう言っているところを見るとそうなんだろうな。アリアは起きるのか?
「みゅ〜〜〜……」
 みゅ〜!? これが猫の鳴き声か!? いやここは俺たちの世界では無いからありなのかも……。いやしかし……。
「か……か……かわい〜〜〜〜♪♪」
 羽衣もすぐさまアリアに駆け寄る。……そういえばかわいいもの好きだったよな羽衣は……はぁ〜。
 そうしているうちにアリアが眼を覚ましたようだ。
「アリア! 目を覚ましたのね! よかった……」
「みゅ〜? リアですか? でもリアは今ここには……? どういうことなのですか?」
 ……猫が……猫が……しゃべった〜〜!! これはありえないだろ!!!!!
 思わず大きな声を出してしまった。でも……でも……わ〜〜〜〜〜!!!!!
「「滝! 静かにして!!」」
 二人にどやされる。トホホ……(涙)。
「真月の血を受け継ぐ者を見つけてきたの。だから帰ってきたのよ」
「そうだったですか〜♪ お帰りです、リア♪」
 そういってこちら向いた。猫に見つめられている感じ……不思議な感じだ……。
「この方が真月の血を受け継ぐ者ですか。かっこいい人ですね〜♪ リアの好みじゃないですか?」
「そっそんなことないわよ! そっそんなことより報告をして頂戴!」
「みゅ〜……ごめんです……」
 はははは……、ちょこ〜っとかわいそうかもな。……んじゃ話を元にもどしていくか。
「え〜っと、アリアでいいのか? ちょっと聞きたいんだけどいいかな?」
「なんですの??」
「まずは、何であんな化け物みたいなものになっていたんだ? アリアの後部に受信機がついていたのを壊したんだ。
そうしたら今のアリアに戻った……。分かる所までで良いから教えてもらえないかな?」
 少し敬語になってしまった。相手は猫なのに……なんでかな……。
「リアは僕のご主人様ですの。だからリアについてこの森まで一緒に来たですの。でもリアはここで待ってて言ったから待ってたですの。
それで、少したった時に……あ〜!! そうでしたの! リアに伝言があるですの! 急用ですの!!」
 急になんだよ……聞いてるのは俺だろ?
「これは滝さんにも関係あるから聞いてほしいですの。それが滝さんの質問の答えにもなるかもですの」
「わかったわ。話してみて」
 俺たちはアリアを中心に囲んだ。3人だけどな。
「いいよ、話して」
 羽衣の合図(なんで羽衣なんだ?)でアリアが話し出した。
「……リアが時空の歪に入った後、すごく怪しい男の人が来たです。その人がこう言ってたです。

……早く逃げるが良い……大きな災いがくるぞ……星は大地を砕き、天は暗き雲に覆われるだろう……心せよ……。

こう言ったんですの。僕には意味が分からなかったですの。その後その人その場から一瞬で消えたんです。
そしたら、また別の怪しい男の人が来て……僕が覚えているのここまでです。リアは何かわかるですか??」
 この話をいったん整理しよう。

 まず、アデリアがアリアをその場に残して、俺たちのいる世界に時空の歪を使って来たわけだ。そこで俺たちを連れて行く説得をした。
 その時間約30分程度。時空の歪は時間がないのだから、アデリアが世界を行き来した時間は、説得していた30分のみ。
 ……その間アリアはこの森(弥生の森と言うらしい)で怪しい人と会った。その人は話すだけ話すと、その場から一瞬
にして姿を消した……。
 その後すぐに別の人が来て……ここまでがアリアの記憶と言うことだ……。

「私の憶測も含まれるが一応聞いて……。
まず私が行って帰ってくる30分間に何かがあったことは確かだろう。まず最初の怪しい男だが、
こいつについては不明といったところだろう。もしかすると存在すらしていないのかもしれない。
なぜなら人間が理論的に一瞬で消えることはありえない。この世界でも瞬間移動と言うのは確立されていない。しかし、
その男の言動は気になる。

……早く逃げるが良い……大きな災いがくるぞ……星は大地を砕き、天は暗き雲に覆われるだろう……心せよ……。

もしかすると何かを暗示しているのかもしれない。もしそうなら陛下に伝える必要があるかもしれない。
その後に来たもう一人の男だが、そいつは確実にアリアに受信機を付けて操っていたのだろう。滝が見たのもその影だろう。
誰もいないと思っていたら人がいた。それで走って逃げた……こんなところだろう」
 俺が考えているのもこんなところだ。何よりも気になるのがあの言葉だ……何の意味があるのだろうか? 戦争を意味して
いるのだろうか?
 しかし、戦争は俺が止めに来た。そうだろ? だったら戦争のことではない……のか? まだ情報が足りないってとこか。
「ちょっと……いいですか?」
 羽衣が恐る恐るてをあげた。アデリアは羽衣に話すように促す。
「その言葉の意味なんですけど……私の家にも同じことが書いてあった本があったんですよ。小説なんだけど。その意味をお父さん
に聞いたら、
これは知る人のみが知る破壊の言葉。羽衣も時が来ればこの言葉を聴くだろうって言ってたの。……小説の話だからやっぱり参考
にならないかな?」
 ……知る人のみが知る破壊の言葉……この言葉の意味……これは……まさか!!
「アデリア! これはまずいんじゃないのか! これは俺の想像だが、もしかするとこの世界に危機が迫ってるんじゃないのか!?
大地を砕くのは……隕石か何か。暗き雲はおそらく……汚染された空気……みたいなものじゃないだろうか? 勝手な俺の想像だが、
戦争があって災いが起こっている。知る人のみが知る言葉。俺たちはこの世界を救うために来た。
俺たちが知る言葉だったって事じゃないのか!?」  羽衣の小説の中の何気ないヒント。……役立つかもしれない。
「その可能性は否定できない……早く町に行った方がよさそうだな……」
 アデリアは途端に真剣な顔になる。かなり重要なことだったのか。それともまだ分からないからあせっているのか……。
 まあなんにせよ、早く街に行った方がいいって事か。
「ここから街は遠いの〜? どれくらいかかる?」
「ここからだと……1時間くらいかな」
 1時間か夜明けまでには着けるって事か。ついたら少しは寝れるかな〜。つうか寝たい。いろいろあったからな……。
「そうと決まったなら、早速街まで行くですの〜♪」
 そう言って街の方向に歩き出した。
「なぁ……アデリア、一つ質問していいか?」
「なに? 分かる範囲でなら答えるわよ」
「アリアはさ……どうやってしゃべってるんだ? 魔法か何かなのか? それともしゃべれるように進化を遂げたのか?」
「私も気になってたの。なんでかな?」
 お前はあんまり気にしてなかっただろ!? あの時俺をどやしたくせに!! ……と言うのは怒られるから言わないでおこう。
「僕が説明するですの〜。僕は普通ではしゃべれないですの。喋れる様になったのはこのリングのおかげですの。
リアとあったときにこのリングをくれたですの。そしたら何と! 人間の言葉が喋れるようになってたですの〜」
 そういえばリングがついてるって言ってたな。そのリングのおかげか。なるはどなるほど。
 まあそのリングにも何らかの効力とかがあるんだろう。今は深く考える必要はないか。他にも重要なことがいろいろあるからな……。
 そんなことを考えているうちに街に着いた。ついた途端にアデリアとアリアは報告があるからといって、事務所らしき家に
入っていった。
 宿の場所も聞いたし、今日はもう寝よう……。考えるのは明日にしよう……。

 チュンチュン……チュンチュン……。
 懐かしいような声が聞こえる。もう何年も聞いていないような声に聞こえた。
「ん〜……ねむ……」
 ここに来ても俺の寝起きが悪いのは直らないようだ。普通に考えれば直らないのだが……やはり努力しだいか……。
「ん……ちゃん……滝ちゃん……滝ちゃん! 起きて〜! 朝だよ! 寝坊だよ! おばさんがいないからって寝てちゃ駄目だよ〜!」
「羽衣……か? まだ眠い……寝かせろ……」
 俺はやはりいつものごとく駄々をこねる。朝は苦手だ。こればかりは直らないんだからしょうがない。
 ボスッ!!
「ンガッ!!」
 俺の上に何かが落ちてくる感覚がした。あまり重くはないのだが、朝にこの衝撃は辛い……。
「お〜き〜る〜で〜す〜の〜〜〜〜! 羽衣さんが困ってるですよ!」
 アリアの声がする。すると俺の上に乗っているのはアリアか。アリアは羽衣の見方か。俺に味方はいないのか〜!
 そう思っていると、体が軽くなる。アリアが降りたのか?
「駄目でしょ、アリア! 滝だって疲れてるんだから!」
 アデリアは俺の味方か〜。うれしいぞ〜。
「みゅ〜……でも、やっぱりリアは滝にやさしいです。好き……、」
 パコッ!! バタン!!
 何の音かは聞かなかったことにしよう。少し恐ろしい気がするからな。
「起きるよ……ふぁ〜……おはよう……」
 アリアは床に倒れていた。……う〜む、なんとも言いがたい……。
「んで、今日はどうするんだ? また歩くのか?」
「取り合えず、状況が知りたいから王都に向かうことになったの。だから王都に向かって歩くことになるわ」
 王都か。どのくらいの距離があるのだろうか? 途中に街とかなかったらどうするんだろうか……。
「まぁそれなりの距離はあるけど、行かないといけないから……ね」
「私はがんばれるよ〜。滝ちゃんもファイトだよ♪」
 そういって宿を後にして王都を目指し歩き出した。
 それにしても、元気だね〜羽衣は。俺はまだまだ完全には疲れが取れないって言うのに。
 若いってのはいいな、うんうん。俺も同い年なのだが……。
「なぁ、アデリア。ふと思ったんだけど……アデリアは何歳だ? ほら、俺と羽衣は同い年だろ? だから気になってさ」
「私は今年で17歳になった。滝たちは何歳なの?」
「おっ〜! 同い年か! 俺たちも17なんだよ」
 意外な共通点があったもんだな。もしかしたら他にも何かあるのかもな。今は何も思いつかないけど。また何かあったら聞いてみよう。

 はぁ……はぁ……はぁ……見苦しいようだが……はぁ……我慢してくれ皆の衆……とにかく今は、疲れているのだ!!!
 結局あれから一日歩き回った。なのに王都までは半分も来ていないと言うのだ! しかも日は暮れかけているのに、街はない!!
 だからがんばって歩いているのだ! だがしかし……一向に街は見えてこなかった。
 仕方なかったので今日はこの場所で野営することになった。俺たちでこんなことできるのか?
「一応、食料や必要なものは先ほどの街で調達しておいたの。だから生きる分には大丈夫よ」
 準備のいい奴だ。しかし生きる分には……か。次の街までは節約していかないとってことか……。
 そのほかにもアデリアはいろいろなものを持っていた。
 水やら食べ物、果物ナイフ、寝袋。他にも多数あった。しかもそれらは信じられないくらいに収縮されていたのだ。
 大きさにして、約1センチ! この1センチに水やらなんやらが入っているのだ! 恐るべし科学の力!!
 そんなことを考えつつ飯も終わり(アデリアが作ったのだが以外にうまかった♪)就寝準備に入った。
「誰かが寝ずの番をしなければならないが……私がやるのが妥当か」
 そんな声が聞こえてくる。寝ずの番か……確かにここは安全とはいえない場所だからな。
「俺がやる。これでも一応男だ。それくらいは引き受けるよ。アデリアや羽衣にはいろんなところで助けてもらっているからな。
このあたりで俺が少しでも活躍しておかないとな」
「いいの? 私がやってもいいんだよ?」
 ここは男としては引き下がれないだろ。いろんなところで恩返しをしないとだからな。
「いいよ。寝ろよ、羽衣。俺に任せろよ、な?」
「そういってくれてるんだ、ありがたく休ませてもらおう。な、羽衣?」
「うん……辛かったら行ってね。すぐに変わるから」
「羽衣の言うとおりだ。滝だけががんばる必要はないからな。助け合えるときは助け合いだ。
辛くなったらいつでも起こしてくれていいからな。私たちは仲間だから」
 俺はありがとうと言い残し、火の近くに腰を下ろした。
 ふぅ〜。今日もなんだかんだ言って疲れたな。歩きっぱなしだったから、それなら疲れるのも当然だ。
 でもこれからのことを考えると疲れたなんていってられないよな……。争いを止める……魔王を倒す……。
 やることはたくさんあるのに、まだ何一つ終わってはいない。まぁアデリアに会ってまだ2〜3日しか経ってないし、
 状況を知ったのも同じくらいだから……そうかまだアデリアとあってそれくらいしか経ってないのか……。
 ずいぶん長い間一緒にいた気がするが。ん〜、これも相対性理論と言う奴か? なんとも難しい理論だな。
 などと考えているうちに火が弱まっていることに気づいた。急いで薪を足そうと思うが肝心の薪がもうなかった。
「薪拾いにでも行くか」
 そう思い立ち上がった瞬間!
 カサッ! カサカサ!
 草むらの中で何かが動くのが分かった。俺はあわてて剣を構えた。敵か? それとも野生動物か何かか?
 野生動物ならいいが、魔物類なら……やはり剣をおろす訳には行かないよな。剣を改めて構えなおす。
 そのときの俺は森で戦闘したときよりは落ち着いていた。あれは初めてだったから仕方ないかもしれないが、今考えると
酷かったよな……。
 でも今回は違うぞ! もし魔物が出てきてもきちんと対応できる! 俺も成長するのだ〜!
 ……調子に乗るのはこの辺にしておこう。このまま硬直状態をすごすのも駄目だ。火が消えかけてるから、薪を何とか 確保しなければ……。
 そのためにはやはり草むらを越えるしかのか……。覚悟を決めよう。俺は自分の心に言い聞かせる。
「おい! そこにいるのは分かってるんだぞ! 出てきたらどうだ!?」
 とりあえず声を出してみる。しかし反応はない。と言うことは野生動物の可能性が高い? いや、気は抜かないほうがいいだろう。
 俺は少しずつ草むらに近づく。右……左……右……。左右から少しずつ様子を伺う。ゲームではむやみに突っ込んではいけない のが基本だ。
 ゲームとは違うのだが、いい情報になるのも確かだ。そして草むらの目の前にたどり着いた。どうする? 斬りかかるか?
「…………」
 俺は息を殺した。相手を伺うことを選択したのだ。相手は必ず何らかのアクションを起こすはず。その隙を狙うんだ!
 またも硬直状態になる。しかし先ほどとは緊張感が違う。今は…………ガサッ!!!!
「っ!!!!」
 俺はとっさに後ろにバックステップで下がった。奴が行動を起こしたのだ! 姿を現した奴は……魔物のようだな。
「なら、迷うことはないよな!」
 俺は魔物に飛び込んでいく! だが、奴もそれに合わせてこちらに向かってくる! 接近戦か……上等だ!!
 魔物は爪を突き出してきた! こちらも対抗して剣を突き出す! ガキーン!!
 爪と剣が交じり合う。その衝撃でこちらは少し仰け反ってしまう。奴はその隙をうかがっていたのか、また俺に向かってきた!
 落ち着け……落ち着け! 真月滝! 俺は……できる!!!
 魔物が攻撃を仕掛けてきた! 俺はその一撃を紙一重のところで交わす。すると奴は体制を崩した。今だ!
「これで終わりだー!!」
 俺の一撃は魔物の心臓に突き刺さる。これで終わった……そう思った瞬間!
「ガガガガガガ――――!!!!!」
 そ、そんな! やつは……生きているのだ!! そんな馬鹿な! 確実に今! たった今! 心臓を貫いたはずだ!! なのに何故!!
「ガガガガガガガ――――!!!!!」
 何なんだ!? 何なんだよこいつは!? 俺は腰が引けてしまう。心臓を貫いても殺せない……。どうすればいいんだよ……。
「くっ……どうすれば……どうすればいいんだー!!」
 俺は叫ばずにはいられなかった……。……あれ? 意識が……遠のいていく……なん……で……。
「…………」
 俺は奴の攻撃を受けたのか? もしかして……死んだのか俺は……。
「…………」
 いや今は意識がある。目は……開けられそうだ。おれはゆっくり目を開けた……。
「…………」
 目の前には俺が心臓を貫いた魔物が立っている。まだ生きているのだ。俺はいったいどうなったのだ? 体はまったく動かない。
 しかし立っていることは分かる。視界が明らかに高い。しゃべることも……できない。何が起こっているのだ??
「ふん……ようやく目を覚ましたのか」
 なんだ??? どこから声が聞こえているんだ?
「やはりお前は気づいていないのか」
 誰がしゃべっているんだ? ここには俺しかいなかったはず。いたとしても羽衣かアデリア。しかしこれは男の声だ。
 お前は誰だ! どこにいる!?
「おめでたいな貴様は! まだ気づかないのか!? これからおまえ自身に剣を突きつけてやる。突きつけている相手が俺だ」
 こいつは何を言っているんだ!? ここには俺と魔物以外いないのにどうやって突きつけるんだ?
 !!!!!!!!
 俺の手が動き……剣を構え……自分の……喉に……突きつけたのだ!!!
「はははははっ! これで俺の正体が分かったか! そう、俺はお前なんだよ! お前の中で眠っている、アデリアが探している……
真月の血なんだよ!!」
 衝撃の事実だった。真月の血が……俺の体を乗っ取ってるとでも言うのか!?
  「こいつを倒したらじっくりと聞かせてやるよ! 俺の戦いを良く見ておきな!! お前が甘っちょろいって事を思い知れ!!!」
 俺の体が勝手に動く。今の俺にはどうすることもできないのか? 体を動かそうとしても自分では動かせそうにない。
 やはりこいつの言っていることは……そう思っているうちに戦闘が始まった。俺は自分が戦っているかのごとく、自分の 視点で見ている。
 おかしなものだな。動けないのに、自分は動いている。矛盾か……。今はこんな説明しかできないな。俺も初めての体験だから……。
「はぁぁぁぁぁ!!!」
 自分はその場にとどまり、力をためている。何も突っ込むことが戦闘ではないと言いたげのようだ。  何で行かないんだよ!?
「ちっ! お前は少し黙ってみていろ! 喋るんじゃねぇ!」
 俺は滝の奴を黙らせる。ここからは俺が話していこう。そして、また力をため始める。
「ガガガガガガガーーーーーー!!!!!!」
 魔物が突っ込んでくる。ふん! 罠だとも知らずに! 愚かな野郎だ!
 先ほどの攻撃と同じように爪を立てて攻撃を仕掛けてくる。それをサイドステップ、バックステップを駆使して華麗に交わしていく。
「その程度なのか! 俺を楽しませて見せろ!!」
 俺は挑発を始めた。久々に出てきたんだ、俺は大暴れしたいんだよ!!
「こないなら……今度はこちらから行くぞー!!」
 俺は魔物に突進していく。そして魔物に接近したところで、魔物の頭上を飛び越え背後に回る。
「くらえ! 烈破斬!!!」
 奴の背中に大きな傷ができる。しかし死ぬような傷ではない。当然手加減しているからな、楽しむために!!
「はーはっはっはっ!! どうした!? こないのか!?」
 更に挑発を続ける。こんなもんじゃたりねぇな!!
 今度は魔物が突進してくる。そうでなくちゃ面白みがねぇ!!
「よし! 俺が見事に葬ってやるよ!!!!!!」
 俺も突っ込んでいく。そして奴の攻撃をサイドステップで交わすし、
「これで終わりだ!! 獣臥烈陣!!!!!」
 魔物のわき腹付近に完璧な攻撃が直撃する。これで終わったな……しかし!!! 奴は生きているのだ!!!!
「どういうことだ……。俺の攻撃は確実にヒットした……。これは……まさか……例の薬が出回っているのか……」
 俺は直感した。これは……以前の争いのときに……。
 いや、昔話はやめよう。いずれ話すときが来る。そのときまでは言わないほうがいいだろう。その日は近いと思うが……。
「だがそれが事実なら、少しやばいな……。早く止めを刺さなければ!!!」
 俺は先ほどと打って変わって冷静になる。……それほどヤバイと言うことなのだ。
「ふぅ〜……」
 俺は精神を研ぎ澄まし集中する。この一撃で決めてやる! しかし、焦りは禁物だ。確実にしとめるための力を蓄えなければ。
「はぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!!!」
 俺は先ほどにもまして力をため始める。しかし魔物の奴もそれを阻止しまいと攻撃を仕掛けてくる。
「ちっ!! これじゃぁらちがあかねぇ!!」
 そう思い俺はある魔法を唱え始めた。
「森林の精よ……我が前にその力を示し……いかなる者の動きを封じたまえ……フォレストロック!!!!」
 大地からツルが伸びていき、相手の足に絡みつく。フォレストロックは相手の動きを封じるための魔法だ。
 呪文を声に出して唱えないと詠唱できないとは……。やはりいきなりの戦闘ではなまっているのか。いや、今は戦闘に集中しよう。
 そして再び力をため始める。邪魔する者はもういない。あとは俺の一撃を加えるのみ……。
「……充填完了……」
 俺はそうつぶやき、魔物に突進していく。奴は動きを封じられているので動くことができない。今が最大のチャンスだ!
 魔物の前まで来ると一度立ち止まり、剣を構えなおす。
「ふぅ〜……良くがんばったよ……お前は。……薬の力とはいえ、ここまでとは……だがこれで終わり……安らかに眠れ!」
 俺は剣を魔物に向けた。
「空を越え……ここに飛翔する! 絶空、天翔剣!!」
 俺の剣は風の刃となり、疾風のごとく魔物の体を貫いた。そして、魔物はその場から消滅した……跡形も残らずに……。
「終わったか……おい! もうしゃべっていいぞ!」
 俺は滝に対してそう促した。このことを伝えなければならないからな。
「終わったのか……? 今の俺はどういうことか良く分からない。確かに自分の視点では見ていたけど、俺は動いちゃいなかった。
これはどういうことなんだ?」
「お前は本当に何も知らないのか? 俺の存在も……」
「あぁ。こんなことは初めてだし……」
「ではまず、この体をお前に返すぞ。説明はそれからしてやる」
 そういわれると、俺の中の何かが静まっていくのが分かった。これが奴だった……のか?
「これでお前は動けるはずだ。動いてみろ」
 俺はそう奴言いわれ動いてみる。腕……動く。足……動く。首……動く。確かに俺は自分で動けるようだ。
「ちゃんと動けるようになってる。いったい今まではどうなってたんだ? それにお前は誰なんだ?」
「まず、俺は今お前の脳に直接話しかけている。だから回りには俺の声は聞こえていない。まずそれを理解しろ、滝」
 ??? すでに良く分からない。脳に直接? そんなことができるのか?
「できるんだよ。俺は・・・お前だからな!」
 俺はお前? 今まで体を動かしていたのは本当にこいつと言うことか?
「そういうことだ。俺、真月の血はお前の使われていない部分に当たる」
「ま、まってくれ! と言うことは俺は俗に言う二重人格……なのか?」
「そういうことになる。しかし、それは誰にでもあることだ。ただ俺が少し特殊だというだけのことだ」
「特殊? さっきみたいに体を動かしたり、今みたいに脳に話しかけることができるということか?」
「少しは理解してきたようだな。そう俺は自分の意思を持っている。だから先ほどのように体を動かしたりすることができる」
 なるほど……少し理解ができてきた。こいつは本当に俺なんだ。ただいつもは使われていない。
 しかしそんなことが実際にあるのか? それにどうやったらこんなことができる?
「質問していいかな? ……え〜と俺……でいいのかな?」
「名前か……俺に名乗る資格はないのだが……この場合は不便か……」
 何ぶつぶつ言ってんだこいつは?
「俺は……真月の血そのもの! 名を……真月 十魔(しんげつ とおま)と言う。俺のことは十魔と呼ぶがいい」
「十魔? お前は俺じゃないのか? 俺と言う事なら俺の名前と同じ「滝」じゃないのか?」
「そこからの説明か……では良く聞いておけ!
俺は確かに「今は」お前だ。だが、昔はそうでなかった。俺は先ほども言ったとおり、真月の血そのものなのだ。
血は先代から受け継がれるものだ。よって、真月の血も引き継がれる。真月の血は他の血とは異なる。決して混ざり合いはしないのだ。
だから、普通の血の人格と、真月の血の人格の二重人格ができることになる。それを今に照らし合わせると、
普通の血が滝。真月の血が俺、十魔と言うことになるのだ」
「じゃあ、十魔と言うのは昔の人……になるのか?」
「そういうことになる。俺は……まぁ昔話は説明不要だ。とにかく! 今の俺は滝と一体化していると言う事になるのだ。理解したか?」
 真月の血……俺にはそんなたいそうなものの血が流れていたのか。……ん? ちょっとまて?
「俺は、このエクストラン(この世界の名前と言うことらしい)に来る前にアデリアに質問したんだ。真月の血のことについて。
この世界の真月の血を受け継ぐ者は死んだって、そういわれたんだ。その死んだという奴の中にも十魔はいたのか?」
「??? 何の話をしている? 真月の血を引き継ぐ者はこの世に一人しかいない。その血は真月の素養を持つものが現れると、
真月の血は素養を持つ人間に吸収されるんだ。真月家の人間でも限られた人間のみしか受け継げない。
今は滝のみが受け継いでいるのだ。だがもし他に子供ができ、その子供に素養があればその子供に俺は吸収されるのだ。
俺はお前が生まれた瞬間からお前の中にいる。それは間違いない。だからもしそのような人間が居るのだとしたら……、
お前が生まれる以前の出来事と言うことになる」
 じゃあアデリアのいっていた事は……ウソ? いやウソをつくような奴じゃない。まだ知り合ってそんなに時間は経たないが、
それだけは理解できる。ではどういうことなんだ?
「いったんアデリアに話を聞きなおしたほうがよさそうだな……。十魔も付き合ってくれないか? 今の話を聞く限りでは、
お前はアデリアが探している、本人と言うことになるんだから」
「俺はお前だ。離れることはできない。しかし俺は、自分の意思で体をのっとることはできない。
お前が必要ないと思えば俺は眠りにつくしかないのだ。それが俺なのだ。今はお前がピンチになった事で出てこれたに過ぎないのだ」
「え? さっきは動かせるって……」
「それは意識があってのことだ。自分で意思の操作はできないのだ」
 なるほど……。だから生まれてここまで気づかなかったということか……。ちょっと納得。
 じゃあ十魔とアデリアが話すのは無理な可能性があるのか……。
「状況説明だけでもしてはもらえないか?」
 十魔は俺の言葉に返事を返さなかった。十魔は眠ってしまったのか……。そうか! 俺のピンチは救われたから……。
「また……会えるかな……」
 そんな言葉を言ってしまう。なんだかんだ言っても結構いい奴に思えたからな。十魔の思いを無駄にしないためにも、
アデリアに話を聞きに行こう。
 っとととと……って言うか今はまだ夜だった。アデリアは寝てるな。火もほったらかしだったからな……。
 とりあえず話は明日だな。明日までに今の出来事を自分なりに整理しておこう。

 ……まず、俺は真実を知った。俺の血には真月の血が流れているというのだ。それがアデリアが探しているものなのだ。
 真月の血は真月 十魔と言うらしい。十魔は昔から存在し、我が真月家に代々選ばれし者のみに受け継がれてきた、そう言う血のようだ。
 そしてその血を受け継ぐものはこの世に一人しかいない。今は俺だ。俺が生まれたとき、
すなわち17年前から十魔は俺の中にいたことになる。だとすればアデリアが言っていた、
 先の争いで命を落としたと言う真月の血を受け継ぐ者はいったい……。あとは十魔が独り言で言っていた薬についてだ。
 このことは正直ほとんど何も分からない。あの時俺は十魔の呪文か何かによって喋れなくされていたのだ。
 だから聞き返すことができなかった。喋れるようになった後は薬の話題を一切出さなかった。だが一つ気になるのはあの言葉だ……。

 …………「どういうことだ……。俺の攻撃は確実にヒットした……。これは……まさか……例の薬が出回っているのか……」
 俺は直感した。これは……以前の争いのときに……。
 いや、昔話はやめよう。いずれ話すときが来る。そのときまでは言わないほうがいいだろう。その日は近いと思うが……。

 以前にもこんな出来事があった? そのときにも十魔は立ち会っていた? 真実はハッキリとは分からない。
 だが十魔の言葉から推測するに、薬については分かる日が来るということだ。近いうちに……。

 今分かることはこのくらいか。まとめ終了。このことを明日、アデリアに話そう(ついでに羽衣にも)。
 だが今は薪を拾って火のところに戻ろう……。そして夜は更けていった……。

 ……ミーンミンミンミーン……ミーンミンミンミーン……。
 セミの声がうるさく騒ぎ立てる。エクストランにも地球と同じ生物は存在しているんだな……。そんなことを思いつつ耳をふさぐ。
 う〜ん……眠い……眠い? ガバッ!!! 俺は勢い良く飛び起きる。
「あっあれ? もしかして……俺は寝てしまったのか?」
 もしかしなくても寝ていたに違いない。あ〜なんてことだ……。はぁ〜……羽衣達に安心しろ的なことを言ったのに……情けない……。
 ……火はとっくに消えていた。薪も俺が持ってきた直後に入れた分しか減っていない。と言うことは薪をくべてすぐに寝た
と言うことか……。
 ますます惨めになってきた……。はぁ〜……朝からため息とは健康に悪いよな……。
「おはよ〜♪ 滝ちゃんお疲れ様♪」
 羽衣が起きてきたようだ。俺が寝てたことなんて知らないだろうな……。ここは俺の権限を守るために! 寝てないことにしよう!!
「いや、これくらいたいしたことじゃないよ。羽衣たちがぐっすり眠れるのならこれくらい軽いもんさ!」
 と、そこにアデリアもやってきた。
「軽いモンね……。ホントにそうかしら〜?」
 意地悪そうに俺に言ってきた。……こいつ……知ってやがる……。俺はアデリアを引っ張っていき羽衣には黙っているように言った。
 わかったと頷いてはいたが、顔は笑っているような気がした。アデリア〜やめてくれよ〜(涙)。
「それはそうと、朝ご飯にしようか?」
「そうだな。腹も減ってるし、今日もまた歩くんだからな」
 アデリアもそうだなと頷き朝食をとることになった(ちなみに内容はパンにいちごジャム! 以上!)。……なんかひもじい気が……。
 でも今は贅沢を言っていられる状況じゃないからな。さっさと食っちまおう。
 ……朝食後、片付けをしている最中に俺は話を切り出した。
「なぁ? 後で歩きながらでいいからさ、俺の話を聞いてくれないか?」
「それなら今聞くから話してみてよ、滝」
「え〜と……、ちょっと長い話になるし、複雑だからさ……すぐに理解してもらえるとも言いがたいから……」
「まぁ……滝がそう言うなら……」
 しぶしぶながらアデリアは了承したようだ。何の話か気にはなっているようだが。まぁすぐに話すし、あせる必要はない。
 そうこうしている内に出発の準備がととのった。……ここでふと大事なことを忘れていることに気づく。
 皆は気づいていただろうか!? 実は昨日の夜からアリアがいないのだ!!!
「なぁ? アリアは?」
 無言でアデリアは目をそらした。事は昨日の夜に起こっていたのだ……。

 ここからの回想は羽衣がお送りしマース♪(このとき滝ちゃんはすでに寝ずの番に行ってて、このことを知らないのです♪)
 ……アリアはアデリアと私に言い迫っていたの。内容は……。
「結局! リアは滝が好きですの!?」
「急になんなの!? わ、私は別に……」
「じゃあじゃあ! 羽衣さんはどうですの? 好きですの??」
「わ、私も……そんなんじゃ……」
 こんな内容を話していたの。……なんだか修学旅行みたい♪
 こういう時って本音をいえないのよね〜大体みんなウソをついたりね♪
 わ……私はホントになんとも思ってないけど……ホントよ!?
 この後もアリアは私たちにいい迫ってきたの。なんでそんなに気になるんだろうね。
「そろそろ……私も怒るわよ……アリア……」
 何かアデリアがすごい状態なんだけど……なんていうか……迫力倍増!? みたいな……。
「でも! アリアは知りたいのです!」
「あ〜も〜! 頭を少し冷やしてきなさーい!!!」
 そういってアデリアはアリアを……投げ飛ばしたの!
「みゅーーーーーーーー!」 ピキーン!
 お約束の音がなっていたような気がする。あ〜アリアちゃん達者でね〜。
「さ、羽衣寝るわよ!」
「ふふふふっ♪ アデリアにもかわいい所いっぱいあるんだね」
 アデリアは赤面する。かわい〜〜〜い♪ たぶん……そう言うことなんだろうね。
「一緒にがんばろうね♪ 私も負けないから♪」
 アデリアは答えてくれなかった。でもお互いライバルになる日も近いかも……?
 この内容は今のところは本編とはあまり関係ないです。でもどこかで恋に発展する出来事があるのもいいかな♪
 ここまでの回想は羽衣がお送りしました♪ 

「アリアはもうすぐ帰って来ると思うから、先に行こう」
 アデリアはそう促し先を急ごうといってきた。まぁ帰ってくるならいいか。俺たちは王都を目指し歩き出した。
「んでさ、さっき言ってた話なんだけど……」
「そういえばなにか言っていたな。とりあえず聞こうじゃないか」
 アデリアは羽衣に少し事情を話し、俺の話を聞いてもらうことになった。……うまく説明できるといいが。
「まずは、真月の血についてだ。アデリアの知っていることをもう一度教えてくれないか?」
 まずは確認からはじめるのが妥当だろう。
「資料でしか見たことはないのだが、真月の血を受け継ぐ者は代々魔物と戦ってきたそうだ。その資料にはこう記されていた。

真月の血は魔物を打つ最大の力であり、目覚めさせていけない力の一つである。
真月の血を引き継ぐには受け継ぐ器が必要であり、またそれは非常に貴重なものである。
故にこの時代まで、必要最低限しか姿を現さなかった。
その力は絶大なものであり、下手に力を使えば一瞬で大地を滅ぼすほどの力があるという。
真月の血を受け継ぐ者 その災いから逃れるべく必要とした最終手段

私が知っているのはここまでだ。」
 目覚めさせてはいけない力か……。確かにそうなのかもしれない。十魔も言っていたが、ピンチだから出てこれたと。
 これが必要最低限のときと言うことなのだろう。
「じゃあ先の争いと言うのはいつ始まったんだ? 真月の血を受け継ぐ者が死んだって言う」
「そうだな……地球とは少し暦が違うが、約3年前になる」
 3年か……。これでは確実に矛盾が生じる。十魔の話では俺が生まれた時点で俺の中に居たと言う。そうすると3年前と
言うのはいったい……。
「正直言ってくれ! 本当に真月の血を受け継ぐ者はそのときに死んだのか?」
「ああ。そのときに亡くなったと聞いている。何か気になることでもあるのか?」
 ……これは真実なのか? それとも俺を騙そうとしているのか? あまり仲間を疑いたくはないが……。
「……それウソだろ?」
「???? どういうことなの滝ちゃん?」
「……そうだ、何を言っているのだ?」
「……今俺が知っていることを話そう……」
 そうして昨日の出来事をすべて話した。魔物が出たこと……、十魔が現れたこと……、薬のこと……。包み隠さず話した。
「……薬……薬……」
 アデリアはそう呟いていた。何か分かるのか薬について!
「……薬と言うのはおそらく、……GMウイルスだと思うの」
 GMウィルス? 初めて聞く名前だ。GMと言うのは何の略なんだ?
「GMはGene manipulationの略。遺伝子操作と言う意味よ」
 遺伝子操作……GMウイルス……これが十魔の言っていた薬なのか!?
「このウイルスは、3年前に出回ったウイルスなの。……真月の血を基に作られたウイルス……なの」
「なんだって! 詳しく聞かせてくれ!」
「……こちらも包み隠さず真実を話そう……」

 真月の血は特殊な血だった。それはさっきの滝の会話でも分かったこと。私たちはそのことに気づいたときから研究が始めたらしいの。
 第二、第三の争いを防ぐべく強力な遺伝子を持つ血を作ると言う研究だったの。
 真月の血は以前地球に行った時に採取したといっていたのを聞いたことがあるわ。その血を使ったんだと思う。
 その結果作られたのが……GMウイルス。GMウイルスは予想以上の出来だった。そのときはウイルスの欠点なんてなかったんだと思う。
 だけど、その薬が投与された人間に悲劇が起こったの。……人格の崩壊……。
 その人は結果、家族を殺し……友人を殺したの……。
 その投与された人間はわれを忘れた。研究者達も危険に思い殺そうとした。でも・・・死ななかった。
 銃で撃たれても、ナイフで刺されても・・・結局、体を押さえつけて首を切り落として終わったらしいの。
 それ以来GMウイルスは禁忌とされ封印されてきたの。
 GMウイルスは禁忌とされただけで、破棄はされていなかった。何者かによって持ち出されていた。きっとずっと昔に……。
 十魔はこのことをたぶん知っていた。だから、……例の薬が出回っているのか……なんていったんだと思う。
 いつ持ち出されたのかは分からない。そして3年前……そう、真月の血を受け継ぐ者が現れたとき……。
 たぶんその頃は疑いもしてなかった。希望すらわいていたのだから。この争いに勝てる! 真月の血が味方にいる!
 そう思う人がほとんどだった。その頃はGMウイルスなんてものは誰も知らなかった。私たちは信じていた。あの出来事 起こるまでは……。
 ある日、真月の血を受け継ぐ者は奇怪な行動に出た。仲間殺し……。
 このことに皆は動揺を隠せなかった。そのとき真月の血を受け継ぐ者はこう言ったらしいの。

 オレタチハ……イズレフクシュウスル……ヤミノナカニホウムッタニンゲンドモニ……フクシュウスル……。

 そのことは一部の生き残った人しか知らないの。なぜならその直後に真月の血を受け継ぐ者は死んだのだから……。
 戦場になっていた大地を焼き払って自害した……そういわれている。周りにいた人たちも一緒に……。
 それで生き残った人にもっと事情を聞こうとしたけど……ショックが大きかったらしく、
そのままみんな自殺してしまったの……。一人残らず……。そしてその死体を解剖した結果……GMウイルスが検出されたの。
 おそらく大地を焼き払ったときにGMウイルスが体内に入った、そう考えられている。
 ……皆はこの話を信じなかった。GMウイルスの研究は内密に行われていたし、かなり昔のものだったから……。
 だから真月の血を受け継ぐ者が自分の命と引き換えに大地を救った、争いを鎮めてくれた。そう言い伝えられるようになったの。

「でも3年前のことだから、私みたいに真実を知っているものもいるの。でもこの話は一部のもによってもみ消されたから、
知っている人もわずか……しかもこの話をすると、真月の血を受け継ぐ者を侮辱してるとされ、抹殺される始末。
だからこの話を知っている人は、皆伏せてきたの。……でもこの争いは終わってなかった。この争いは続いていた。
私たちの知らないところで続いていた。それが今ってわけなの」
「これがすべてか……なんて事なんだ……GMウイルス……真月の血……」
「こんなの悲しいよ……」
 俺たちは正直ショックだった。真月の血のこと、GMウイルスのこと、他にもたくさんたくさん……。
 大量の人が死んだ……。GMウイルスが原因で……。真実は誰も知らない……。
 だからこそ辛い。この悲しい結末を知らない。いや……逆に知らなくて良かったのかもしれない。
 このことを知ったらまた争いが起こるかもしれない。
 ……頭の中がぐるぐるする。吐き気がする。俺と羽衣は気分を悪くしていると言っていいだろう。でもこれが真実。紛れもない真実。
 これを受け止めるしかない。3年前の争いの延長……それにあの言葉……、

 オレタチハ……イズレフクシュウスル……ヤミノナカニホウムッタニンゲンドモニ……フクシュウスル……。

 この言葉が物語っている。その復讐が今……始まっているのだろう。この争いを俺たちは止めに来た。悲しい争い……、
真実を知らない争い……。誰がこんなことを予想していただろう! 第二第三を防ぐために作られたものが、
争いを起こす道具になっていると言うことを! くそ!!! 何でこんなことになったんだよ!!!!
「きっと俺たちがいるからこのような争いになったんだ! 俺たちが元凶だ! 真月の血は表舞台に出るべきではなかったのだ!!!」
 俺は頭を抱え込みその場に蹲ってしまう。
「それは違うな。滝が悪いわけじゃない。同時に十魔にも責任はない」
「そ、そうだよ! 滝ちゃんは悪くない! 十魔さんも悪くないよ〜!」
 二人は俺を励ましてくれているのか? だが……真実は変わらない……。真月の血が原因だ! あ〜、最近はいろんなことが
ありすぎたんだ。
 真月の血から始まって、時空の歪、次元、エナレイ族、戦闘、十魔、GMウイルス……。他にもいろいろあった。どれも唐突に……。
 俺はきっと受け止められない事だらけだったんだ。それでも理解しようとしてきた。すべてとは行かないが、自分のできることは全部。
 だけど……無理だったのかな……俺には荷が重すぎたのかもな……。ははは……無様だな……。
「ははは……ふぅ〜……ごめん、きっと取り乱してた……」
 深くため息をつく。誰のせいでもないんだよな……。でも昨日夜からは……。
「滝ちゃん……私は滝ちゃんを助けてあげたい! 一人で抱え込まなくてもいいんだよ!? 私がいるよ!? アデリア だっているよ!?」
「羽衣……」
 ……仲間なんだから……そんな言葉が頭をよぎる。俺が言い出したことなんだよな……。今がその時なんだろうな。真月の血
のせいじゃない。
 十魔が悪いわけではない。割り切らないといけない。争いを止めに来たんだ。真実を知れてよかったじゃないか。
 戦う目標ができた。そう考えるのもいいかもしれない。
「うわあああああああああああああああ!!!!!!!!!」
 俺はものすごい雄たけびを上げた。これ以上声が出ないと言うくらい声を張り上げた。二人は驚いている。……ここからが俺の始まり。
「ふぅ〜、すまないな。皆も辛いんだよな。アデリアだって、羽衣だって。俺だけで抱え込むことはないんだよな。
有難うアデリア! 有難う羽衣!」
「礼を言うのは間違っているぞ滝。私たちはまだやることがある、ちがうか?」
 まったくそのとおりだ。真実を聞いただけで満足してられない。3年前、あの時とは状況は違うかもしれないが、
GMウイルスは出回っている。そのことをまず止めないといけない。その時、聞きなれた声が遠くから聞こえてきた。また忘れてた……。
「みゅ〜〜〜〜〜! やっと見つけたですの〜」
 アリアだ。そういえば居なかったんだったな。
「どこ言ってたんだ? 心配……」
「それより大変ですの! すごい話を聞いたですの!」
 俺の話を最後まで……聞け〜〜〜〜〜!! ……ま、いいか。
「魔物が……現れたですの!!」
 !!!! みんな声が出ない。魔物が現れた? 普通ではありえないことだ。
 でもGMウイルスが出てきたんだから話は別! 先の争いでも出てきたときと同じ! 俺たちはそう確信した。
「アリア! それはどこにいるの!?」
「王都ですの! 王都アリエスですの! 今はもう魔物は居ないという噂もあったですの。でも油断できないですの!」
 おれたちが目指しているところにいるのか……。都合がいいといえば都合がいいかな。……ここでふと疑問が浮かんだ。
 なぜ王都にいる? 目的は? フクシュウ……もしかして……。
「なぁ! やばいんじゃないのか! 王都には陛下だとかがいるんだろ!? かなり危険じゃないのか!?」
 アデリアは、はっ! とする。危険さに気づいたようだ。目的が分からない以上安心はできないといったところだろう。
「急ごう!」
 俺たちは頷きスピードを上げた。間に合うといいが……。

 ……歩くこと一日、俺たちは昨夜と同じ野営を行っている。王都まで後少しと言うことらしい。明日にはつくということだ。
 街は大丈夫だろうか……。そこにラグーンはいるのだろうか。
「ちなみにラグーンはどこにいるんだ?」
 もとはこいつの討伐だったのだから聞いておいて損は無いと思う。もしかしたら魔物を率いて街にいるかもだしな。
「足取りはつかめていない。奴は移動しているから、場所の特定はできないのだ」
 なるほど……場所の特定ができているなら、直接その場所に行ってたかも知れないもんな。
。 「はいは〜い、質問いいかな? ラグーンと、GMウイルスの関連性はないの?」
「ハッキリした事は分からない。でもアリエスに行けば状況がつかめるかもしれない」
 関連性がもしあるのだとすれば、ラグーンがGMウイルスを持ち出したということになるのか。……課程の話をしても今は意味ないか。
 今は早く王都に向かう! このことだけを考えよう。
「今日も俺が寝ずの番をするから、お前達は寝ろよ」
「でも……昨日も滝ちゃんがやってたでしょ? だったら今日は私が……」
 俺は羽衣の口を人差し指で押さえ、微笑んだ。羽衣は察してくれたのかどうかは分からないが、頷いてくれた。
 そうして今夜も寝ずの番をすることになった。……明日は王都か。気合入れないとな! 心の中でそう叫び、皆が安心して眠れるように
最善の努力を尽くそうと思った……。

 ……朝日が昇ってくる。今日は起きているから朝日が見えている。今日が王都のいく日と言うことか・・・。
 ……トントントン、トントントン……。
 何の音だろう? 羽衣たちのほうから聞こえてくる。なんなんだ???
「あ! おはよう滝ちゃん! 朝ごはんもうすぐできるから待っててね♪」
 羽衣が朝食を作っていた。アデリアもそれを手伝っている。何かこういうのもいいな。朝ごはんを食べるだけなのだが、何かこう……。
 ま、とにかくいい感じと言うことだ!(無理やりだな……)。
「滝、早くそこに座りなさい!」
 羽衣がお袋のまねをする。なんだかんだしているうちに朝食ができたようだ。しかし……なんでお袋の真似なんだよ……。
「だって、滝ちゃんさびしいかな〜と思ったから……てへ♪」
「てへ♪ じゃね〜よ! 淋しくなんかないっつーの!」
 俺は羽衣の頭をぐりぐりと攻撃する。……なんか懐かしいな……。少し前にもこんな出来事があったって言うのに、
そのことが昔のように感じる。
「……ご飯を……食べようと思うのだが……」
 アデリアが遠慮そうにそう言った。そうだな、食べるか! 羽衣に言われたところに座り朝食をとり始めた。

 ……朝食が終わると急いで後片付けを済まし、王都に向けて再び歩き出した。あと少しか……。
「では、これからの手順を説明しておく。
まずは、王都に着いたらすぐ陛下に謁見をしにいく。陛下には事前に伝令を走らせて置いたので、すぐに謁見が行える。
たぶんそのときに状況が把握できると思うから、その時の状況次第で後の判断はしようと思う」
 俺と羽衣は頷く。アリアはこのことを知っているようだった。たぶん前の街で報告を行っているときに聞いたのかもしれない。
 ……それはさておき、謁見はどんなことをするんだ!? 地球で言う総理大臣と話をするようなものなのか?
「う〜ん……私にもこのことだけはわかないよ。総理大臣さんのこと良く知らないし……」
 そうだよな……俺も羽衣も別に総理大臣と話しをしたわけじゃないし。ま! 何とかなるだろ!
 ……それから歩くこと3時間。ようやく建物が見えてきた。
「あれが王都よ」
 すげー……こんなに遠くからなのに建物がハッキリ見えている。それだけ大きいということなのか……。
 俺と羽衣は圧倒されそうになっていた。地球にも大きな町はあるが、俺たちが見てきたのは日本のものだけだ。
 だからここまで大きいのは初めてだったのだ。マジすげーよ!
「でもさ、ここからでも結構距離あるんじゃないのか? 見えてはいるけど、なかなか着かないぜ?」
「あと2時間くらいで着くですの」
 アリアがそう教えてくれる。……それでもあと2時間か。遠いのか近いのか分からない距離だな。
 普段はこんなにも歩いたことないから分からないけど、徒歩で2時間はどのくらいの距離になるんだろうか?
 そんなことを考えているとアデリアに話かけられた。
「陛下の前では無礼な行動は謹んでほしいの。それは分かるわよね?」
 何で俺だけに言うんだよ!? 羽衣は!? アリアは!?
「アリアは何度も陛下にあっているから常識をわきまえている。羽衣は大丈夫だ」
 何が大丈夫なんだ! 何が! ふぅ〜……俺は信用がないのか……まぁがさつな方ではあるが……。
 そんな会話をしているうちにだいぶ王都に近づいていた。……近くで見ると更にデケ〜〜〜!! これが王都なんだな〜。
 俺は小学生のように好奇心が満ちてくる。……目的は見物じゃないぞ。陛下に会うんだ、忘れるなよ真月滝。
「……今滝ちゃん、デケ〜とかすご〜いとか思ってるでしょ!」
 ……なんか悲しい。羽衣にはお見通しってわけか。まぁ幼なじみだから不思議ではないが、恥ずかしいな。こんなことを見通
されていると。
「図星なのか? 滝はお子ちゃまだな……」
 うがーーーー!! アデリアー! それ以上言うなー!! ……余計惨めになるだろ……(涙)。
「滝は面白いですの〜♪」
 こいつにまで……もういいや……。早く王都に行こう……。俺は恥ずかしさを隠しながらスピードを上げた。皆は笑っていた……(涙)。
 そうこうしている内に王都の正門前まで来た。……何度も言うようだが、やはり……デカイ!!!!
「見えるか? あそこの頂上にあるのが王宮だ」
 そこにはすごく立派なお城が見えていた。地球にもこんな立派なものはないというくらい立派だ。
 ……おそらく魔物はもう居ないのだろう。状況を見ればすぐに分かる。魔物が居ないとなるとなんか緊張してくるな……。
 陛下に会うのが第一目的になるんだから。
 ……行くのか。やはり緊張してきた……。でもここまできたんだから、行くしかないよな!
 俺はアデリアと羽衣の顔を見合わせ、俺たちは王宮に向かって歩き出した……。
 

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