第0話 〜オープニング〜■ 第0話 〜オープニング〜■


All human existing in the world. Hear a voice of God.
誰か教えてください。
目の前で起こった出来事を。

誰か教えてください。
遠くで起こった出来事を。

私は全てを救います。
だから全ての出来事を、教えてください。
                       Ustegnihs.T.Trans
Where does the world begin to move towards? What does the world plan? All began from here…….
All truth on darkness. You yet know nothing.
Let's tell all truth here.



 漫画だけの世界だと思っていた。
 しかも、その中心が俺だなんてますます思ってもいなかった。
 世界は何を中心に動き出すのか? 何をたくらんでいるのか?
 全てはここから始まった…………。


 ……事の発端はある満月の夜に起こった。
 その日はきれいな満月が出ていた。あの時はこんなことになるなんて思ってもいなかった。しかし起こってしまったんだ。
 物語は……始まった…………。


 カーテンの隙間から朝日がもれ、せみの鳴き声がうるさく響く。
「う〜ん……」
 顔に朝日が当たる。まだ起きたくない。でも学校がある。いずれはおきなくてはならない。
 そのタイミングが難しい。
「滝〜、早く起きなさ〜い! 学校遅刻するわよ〜!」
 滝……そう、これが俺の名前。
 俺は、霧乃高校に通う真月 滝(しんげつ たき)、高校二年生だ。
 正直学校に行くのはかったるい。でも、もうすぐあいつが来る時間だ……。
「滝ちゃ〜ん、学校に行く時間だよ〜。起きてる〜?」
 やっぱりきたか……。まだおきたくない。でもお袋の起きろという声も同時に聞こえてくる。
「あいつも毎朝懲りないな……。おきるか」
 駄々をこねながらも起きる決心をした。
「おはよう」
 俺の声がリビングに響く。
「やっと起きたの〜? 羽衣ちゃん来てるわよ〜。早くしなさ〜い!」
 キッチンからお袋の声が響いてくる。あ〜俺の弁当作ってくれているのか。
 俺は足早に顔を洗い、ダイニングに用意してある朝食に手を伸ばした。
「これお弁当、ここに置くわよ。あ〜急がし急がし……。あんたがもう少し早く起きてくれたらね……」
「……」
 俺はもくもくと朝食をほおばる。これはすでに毎日の決まり文句になってしまっている。
 そう……お袋は俺に早く起きろといっているのだ! 無理だ!!!!
 起きられるものならとっくにそうしている!!!!
 と言う、心の声を押し殺して朝食を食べる。これが毎日の日課と化しているのだ。かったるい朝だ……。
 朝食を済ませるとさっさと玄関に移動する。
「わすれものはない〜?」
 お袋の声が聞こえてくる。これも決まり文句の一つだ。
「大丈夫だよ〜」
 と返答する。これもいつもどおりだ。靴を履くとその重い足を持ち上げ、一歩を踏み出す。
 ガチャ!  朝日が目に直撃する。いい天気だ。良い事あるといいな〜とそんなことを思いつつ玄関を出る。
「いってきま〜す!」
 目の前には案の定奴がいる。
「やっときた〜! 遅いよ〜。遅刻するよ〜?」
 そんなとろい声をしているのは俺の幼なじみだ。
 名前は涼宮 羽衣(すずみや うい)、俺と同じ霧乃高校に通う高校二年生だ。
「遅いとおもなら先に行けよ……かったるいな……」
「又そんなこと言って〜。私が行っちゃうと遅刻するでしょ〜?」
「そんときはそんときだ……」
「またまた〜。照れちゃって〜♪ かわいいんだからっ☆」
「うるさい!」
 ポカッ!
「いった〜い。何で殴るかな……」
「お前がうるさいからだ。そんなことより早く行こうぜ。本当に遅刻しちまう!」
「うん!」
 そして学校に向けて走り出す。これが朝の会話だ。大体こんな他愛もない無駄話をしている。
 ほとんど遅刻するとか遅刻するとか遅刻するとか……そんな話が多いかな?
 今はそんなことはどうでもいいか、早くしないとほんとに遅刻するからな。
「スピード上げるけどついてこれるか?」
「うん……はぁはぁ……大丈夫……はぁはぁ……だと思う……」
 う〜ん、これ以上スピードを上げるのは無謀か……。
「ほら、カバン持ってやるからがんばれるか?」
「うん! ありがと! さぁ〜、がんばるよ〜」
 本当は羽衣のカバンなんかかったるくて持ってやりたくないのだが、
遅刻ぎりぎりの原因を作ったのは俺だからな……。そこは我慢だ!
「あとすこし! ラストスパートだ!!!」
 校門前では先生が校門を占めようとしている。更にスピードを上げる。もうちょっと……もうちょっと!
「ま〜に〜あ〜え〜〜〜」
 こういうときにスローになるのはなぜだろう……。
 ささやかな疑問を考えつつ校門がしまるぎりぎりのところで俺達は滑り込む。
「もう少し早く来なさい。このままだといつ遅刻してもおかしくないぞ」
 先生のそんな忠告を受ける。それも結構な回数聞いてる気がするが、今は体力回復に専念しよう。
「はぁはぁ……間に合って良かった〜」
 たしかに……。そんな言葉をぼそりっと言い放って教室に向かうことにした。
「おはよ〜」
「又ぎりぎりかよ〜」
 そんな声が飛び交う中、友達に挨拶を交わしつつ自分の席に向かう。と、いう所で一人の友人に呼び止められた。
「お前はさ〜、もうちょ〜っとでも早くこれねぇのか〜? 話したいことがあっても話せねえじゃねえかよ」
「なんかあんのか?」
 興味が引いたのか、思考が麻痺しているのか、その友人の話を聞いていた。もうすぐ先生が来るっていうのに……。
「例の事件についてだ」
「なに! 何か分かったのか!?」
 例の事件と言うのは、おとといにあった殺人事件のことだ。

 ……おととい、奇妙な殺人事件が起きた。とにかく死に方が尋常ではなかった。首の右半分が……むしり取られていたのだ。
 警察も明らかにおかしいと思い、事件のほうで捜査をしていたのだ……。
 それを何気に面白く思ったのか分からないが、俺達も探ってみようということになったのだ。

「例の事件はどうやら……他殺ではないらしい」
「なに!!!」
 思わず大きな声を出してします。クラス中の注目を浴びてしまった。申し訳ない……と心で言いつつ話を続ける。
「首の右半分がむしり取られていたんだぞ!? 他殺じゃないわけないだろ!」
「それが、俺が入手した情報によると、むしられた首から被害者の指のものと思われる皮膚が検出されたようなんだ」
 いったいどこの情報やら……。
「自分で自分の首をかきむしったというのか!? 信じがたいぞそんなこと!」
 そう信じられるはずがない。自分で自分の首をかくむしるなど到底できない。
「それ以外には何か検出されていないのか?」
 やはりそこが気なってしまう。他殺じゃないとすると……薬物……病気……それとも……。
「いや、まだここまでしか分かっていない」
 まあそうそう解決にはいたらないか……。
「信じがたい真実だが心には留めておくよ」
 そうしている間に先生が来たようだ。
「早く席に着けよ〜」
 友人が促す。お前が呼び止めたんだろっ!!!
 ちなみに補足として言っておこう。この友人は田村 哲哉(たむら てつや)。おれの最大の友人? だ。……最大の悪友でもある。
「早く席に着け!」
 と先生にも促されてしまった。この話はいったん忘れよう。そう考えつつ席に着いた。

 ……キンコ〜ンカンコ〜ン。
 昼休みの合図だ。相変わらず長い午前中だった。相対性理論をうらむぜ……。
「さぁ〜飯だ!」
 景気づけに声を上げてみた。全員無視ですか〜。……さびしいと思う今日この頃。
 と思うと否や元気のいい声が廊下から聞こえてくる。またあいつだよな……と思いつつも廊下を見る。
「滝ちゃ〜ん、お昼食べよう〜」
 まあ嫌じゃないし一緒に食ってやる、と行って屋上に行こうと促した。
「今日は晴れてよかったね〜。お弁当がおいしく食べられるよ」
「まあ雨より1億倍マシだな」
 まあ雨も嫌いではないのだが、ここは羽衣に合わせておいたほうがこの先何かと便利だ。
「あ! そういえば今日は満月なんだよ。しってた?」
 ああ〜そういえば新聞を見たときに乗ってたような乗ってなかったような……。
「そうなのか?」
 とりあえず確証がないので知らない振りをする。
「うん、何かね今夜の満月は特別らしいよ。何でも異世界との扉が開くんだって〜」
 はぁ〜!? と意味不明な声を出してしまった。異世界?そんな情報どこから出てくるんだよ……。
「知らないのか? 結構有名な話だぞ?」
「「うわ〜!!」」
 哲哉だった……。おどかすな〜〜〜!!!
「お前はいつからそこにいるんだよ。っていうかどこから沸いて出たんだよ!」
 当然のツッコミだ。しかし奴は……。
「まあ雨より1億倍マシだな、と言ったときにはもう居た。それに沸いては出ていない、歩いて屋上に来たのだ。これでどうだ?」
 さらりと返答しやがった。なんともムカつくやつだ。ん? っていうか最初からいたってことかよ〜!?
 ……その声はすでに哲哉には聞こえていなかった。虚しいな……。
「んで、その異世界がどうとかって言うのは何なんだ??」
 とりあえず話を戻すことにした。気になるからな。
「例の事件のあと有名になったことなんだ。あの事件不可解だったろ? それで2日後の満月のことが噂される様になったんだ」
「でも2日前からならそんなに噂にはならないだろ?」
「これは前々からあった噂なんだ。それが事件があったことで多くの人に広まったというだけのことさ」
 う〜ん、にわかには信じがたい。でもこの間の事件は不可解な点が多いし……。
「ちなみに……すべてうそだ」
「んな!?」
 またもや変な声を出してしまった。はぁ〜〜〜!? うそ!? どういうことだ!?
「うわ〜い☆ 引っかかった〜☆」
 間抜けな声が聞こえてくる。引っかかった? と言うことは……ホントに全部うそ?
 ガクッ!
 あれ? 足が……立てない? 何で? 緊張していた?
「はっはっはっ! 立てないでやんの!」
「うるせぇ! マジびっくりしたんだからな!!!」
「ごめんね、やめようって私は言ったんだけど遅刻寸前の罰だって言われて……」
 確かに反撃しようがない。遅刻寸前の原因は俺にあるのだから……。はぁ〜かったる……。
「……とりあえず飯を食おう」
 早くしないと昼休みが終わっちまうからな。でもさっきの話が頭に残ってる……。
 あ〜も〜忘れろ俺! すべてうそだ! そう心に言い残すのだった。

 ……キンコ〜ンカンコ〜ン
 やっと一日が終わった。授業が終わるといつものように机にすぐに突っ伏す。長かった……などと思いつつ突っ伏した。
「もしかして昼休みの話まだ考えてるだろ?」
「うっうるさいな! 早く帰れよ!」
「はっはっはっ! はいはい帰りますよ〜」
 哲哉嫌い! そんなことを良く思うのだが、憎めない。なぜだろうか? う〜ん、どうでもいいか。
「滝ちゃ〜ん、帰ろ〜」
 やっぱりきたか……。他に一緒に帰ってくれる友達はいないのか?
「そんなことないよ。でも滝ちゃんほっとくと、いつまでも寝てそうだもん」
 俺はそこまでルーズか? さすがにそこまではいかないぞ、おい!
「もういい! 早く帰るぞ」
「うん!」
 外に出たとたん、日光が顔面を直撃する。暑い、眩しい。セミの鳴き声も相変わらずうるさい。
 朝からなき続けているのに疲れないのだろうか?まあおんなじセミが鳴いているかどうかは分からないが。
 どんなに嫌でもこの道のりをたどらないと家には帰れない。この時期はつらい……。
「ね〜、さっきから何にもしゃべらないけど……やっぱり怒ってる?」
「怒ってね〜よ。もともと遅刻しそうになったのは俺が原因だしな。それに全部うそなんだろ? だったら
お前が気にする必要はねえよ」
 うん、と相槌を打った。こういうところは素直でいいところだ。それに比べるとあいつは……。明日からいじられるんだろうな……。
 かったる……。
「……ちゃん? 滝ちゃん! 聞いてる!?」
「あ……、ああ聞いてるよ? 何?」
 絶対聞いてないでしょ〜! と言う顔で俺を見ている。でも図星なので何もいえない。
「だ・か・ら! 今日の満月、河川敷まで一緒に見行かないかな? あそこは電灯もないし、開けてて良く見えると思うから。
どうかな? いやかな?」
 嫌って事はないのだが……かったるい。でも今日の遅刻寸前のこともあるからな……。
「夜食を持参してこいよ」
 確実に照れ隠しになってしまった。まあ羽衣は気がつかないだろうな、鈍感だしな。
「うん! おいしいの期待しててね!」
 今日最高の笑顔が見れた。ちょっと役得かも。なに恥ずかしいこと考えてんだか俺も……。
「そんじゃあ、9時ごろに迎えに行くよ」
「いいよ! 私が誘ったんだし、私が迎えに行くよ!」
「俺が行く。うまい夜食を作ってもらうんだし。そ・・・それに毎朝迎えに来てもらってるしな!」
 顔が真っ赤になる。言っててはずかし〜。こんな事言うなんて……頭麻痺でもしたか?
 などと照れ隠しを考えてしまう。羽衣にはどう写ったのかな……。さりげなく羽衣の方を見た。
 顔が真っ赤だった。うわ〜どうしよう!? なんて話しかけたらいいんだ!?
 こんな展開は何気に初めてかもしれない。対処法が思いつかない。と、頭を悩ましていると羽衣のほうから話しかけてきた。
「う……うん……じゃ……じゃあ……お言葉に甘えるね」
 何で微妙に片言なんだ!? こっちまで緊張するじゃねえかよ! まあ言い出したのはまたもや俺だが……ふぅ〜。
 気を落ち着けて……落ち着けて……。クールになれ、滝……。
「んじゃ9時に羽衣の家に行くから準備しとけよ」
 元気よく相槌を打つ。そういってそれぞれの帰路へ分かれた。

 俺は家に帰ったとたんに物置に駆け込んだ。
「確かこのあたりに……おっ! あった!」
 その手には、望遠鏡が握られていた。いつだったか忘れたが、親父に粘りに粘って買ってもらった代物だ。
 その頃に星に興味があったわけではないのだが、かっこいいという理由だけで買ってしまったのだ。
 今考えるとものすごく無駄遣いしたと思ってしまう。でもまぁこうして使える機会がきただけでもよしとすることにしよう。
 そんなこと考えつつぜんぜん使われ形跡のない望遠鏡を引っ張り出して、布巾で汚れを落とした。
「うん、綺麗だ!」
 当然だ。使ったためしがないのだから。などと自分に突っ込みを入れてみた。何か虚しい……」
「とりあえず俺の準備はこんなもんかな。あっ! 待てよ……椅子とかあったほうがいいのかな……確か物置の奥のほうに……」
 また物置の中を覗き込む。こんなに物置を使うときがくるとは、なんとも言いがたい真実だな。
 そしてまもなく折りたたみの椅子を二つ見つける。今度こそ完璧の準備完了! あとは夜を待つだけか。
 俺はベットに飛び込んだ。ふぅ〜、疲れた〜。夜まで一眠りするかな……。

 う〜ん、もう夕方か? ……疲れは取れたかな。
「さて夕飯を食いに行くか」
 そういってダイニングに向かった。
 ……お袋がいない? 買い物か? 違う、買い物籠はある。と言うことは……誘拐!!
 ……んなわけはないか。でもどこいったんだろう……。
 そんな時一本の電話が鳴る。俺としたことが少しビクッとしてしまった。
「はい、真月です。どちら様ですか?」
「滝? お母さんよ。今日ねちょっと帰れそうにないのよ」
 言っている意味が少し理解できなかった。仕事が長引いているのか?
「そうじゃないんだけど、お父さんの仕事の都合で急遽、北海道に出張になったのよ」
「それとお袋とどう関係があるんだよ?」
 当然そういう質問になる。親父とお袋が働いている場所はぜんぜん違うのだから。
「それがね、奥さん同伴がいいって向うさんが行ってきたみたいなのよ」
「なんで?」
「それはわかんないけど、とにかくお父さんの仕事の都合だから仕方ないの!」
 何かむちゃくちゃな気がするのは俺だけだろうか……。たぶんこれ以上言ってもおんなじ答えが帰ってきそうな気がする。
「……分かったよ。晩飯は適当に済ます。んでお袋たちはいつ帰ってくんだよ?」
「それも仕事の都合だから分からないの。でもお父さんは早くて3日くらいって言ってたわ」
 3日くらいって……。大雑把だ……。ホントに出張だけが目的か? 疑わしいぞ、おい……。
「分かった。その間適当に済ますから、もう連絡入らないよ」
 それでもとりあえずは納得しておく。
「そういってもらえて助かるわ。もう……北海道に着いちゃってるから」
 そうだと思ったよ……はぁ〜。
「戸締りして寝るのよ? 火の元栓は必ず締めてね? わかった?」
 俺は子供かよ……。というかそこまで心配するなら俺を一人取り残すなよ……。
「わかってるよ。仕事まだ残ってるんだろ? 俺の心配はいいから仕事しろよ」
「そう? それじゃきるわよ? 何かあったら電話してね? 携帯はいつでも電源入れておくから」
 俺はわかったよ、と一言言って電話を切った。
 何か疲れた……。今起きたばかりなのに……。ふぅ〜かったる……。
 それより夕飯どうするかな……。何か食いに行くか? でもそれだと羽衣との約束に間に合わなくなるな……。
 やはりここは自分で作るか……と思ったけど俺は料理できないんだった。……情けないな。
「カップ麺でも食っとくか」
 そういえば先日まとめ買いしてたのを思い出した。それでお袋が帰ってくるまでは飢えをしのぐか……。
 そう決めるとさっさとお湯を入れて三分待って速攻食った。満足満足♪
 ふと時計を見上げた。まだ7時だ羽衣の家に行くまで2時間もあるのか……。
 寝てしまうと起きれない可能性が高い。テレビでも見てすごすか。そう決めると足早にリビングに向かった。
 あれ……? ささやかな異変に気づく。何かがおかしいぞ? 何がおかしい? 朝と何が違う?
 う〜ん……あっ!! 時計だ! ダイニングの時計は7時だったのに、ここの時計は9時05分をさしていた。
 あわてて携帯電話を取り出す。9時05分。……て言うことはダイニングの時計が間違っている、あるいは止まっているという事。
 ……もしかしてヤバイ?
「完全に遅刻だ〜!!!」
 思わず声を張り上げてしまう。おれが迎えに行くとかいったくせに俺が遅刻かよ! マジ洒落になんないぞ!!!
 とりあえずダッシュだ。そう思うと望遠鏡と折りたたみ椅子を2つ担いで家を飛び出した。
 羽衣怒ってないかな? どうやって機嫌を直そう……。
 などと考えつつ猛ダッシュで羽衣の家を目指した。
 涼宮家と真月家はそんなには離れていないのだが、今は望遠鏡などを抱えている為か妙に遠く思えてくる。
「お〜い! 滝ちゃ〜ん! 遅いよ〜!」
 いきなり遅いといわれてしまった……。確かにそうなのだがやっぱりへこんでしまう。
「はぁはぁ……ご、ごめん……。はぁはぁ……遅れた……」
 今精一杯の言葉を搾り出して誤る。
「いいよっ♪ 一緒に満月を見に行けるだけでもうれしいもん♪ それに……望遠鏡とか持ってきてくれたでしょ? やっぱり
うれしいよ♪」
 羽衣の顔が真っ赤に染まっていくのが分かる。たぶん俺の顔も真っ赤に染まっているんだろうな。一日に二度も赤くなるとは……。
「まぁ望遠鏡はあったほうがいいと思ったし……、椅子は立ってるの辛いかと思って……。そんなことより早く行こうぜ!」
 完全に照れ隠しになってしまった。はぁ〜、今日はこんなことばかりだ……。ため息も何度ついたことか……。
「それじゃ行こう♪」
「ああっ!」
 そう言って河川敷まで歩き出した。俺の手には望遠鏡と折りたたみ椅子。羽衣の手にはいい匂いのしたバスケットが握られていた。
 うん! 期待できそうだ。
 そう思っている内に、いつの間にか河川敷に到着していた。
「うわ〜広いね〜!」
 確かに。子供の頃に来た記憶しかないから異様に広くも、懐かしくも感じる。
「さて、どっかに座るか?」
 そう促すと、ある程度のところまで行き、手に持っていた折りたたみ椅子を広げた。
「ありがと♪」
 そういって俺と羽衣は椅子に腰掛けた。そして羽衣はバスケットに手をかけた! 待ってました〜〜!
「おいしいお夜食っていてたから、私が一番得意なクッキーを焼いてきたの。さぁ、どうぞ♪」
 そういってクッキーをこちらに差し出した。俺はそれを一つ手に取り、口に運んだ。
「ど……どうかな〜? おいしい? それとも……」
 不安そうにこちらを見ている。作ったものとしてはやはり気になるんだろうけど、羽衣は料理が上手なのを俺は知っている。
 当然このクッキーも最上級にうまい! ……でもそう期待したまなざしで見られると、からかいたくなるんだな〜これが!
「……」
「も……もしかして、焦げてたりした? 生焼けだったりした? どう……なの? ハッキリ言ってくれていいから……」
 ちょっとシュンとしたようだ。もうこんなもんで許してやるか。別に悪いことをしたわけではないが。
「……うまいよ」
 ぼそりとそういった。
「えっ!?」
 羽衣はうまく聞き取れなかったようだ。でももう一度言うというのは、なんだか恥ずかしい。
「ま……満月早く見ようぜ!」
 やっぱり照れ隠しをしてしまう。でも羽衣は何かを察したようで、頷き望遠鏡のそばによってきた。
 でも……望遠鏡使う必要あるのかこれは……。
 結果から言うと望遠鏡は必要なかったように思える。なぜなら星を見に来たわけではないのだから。満月なら普通に見えている。
 しかもいつもの月と違い、満月と言うだけでいつもよりも大きく見えたりするものだ。
「もしかして……いやもしかしなくても、望遠鏡必要なかったな」
「そんなことないよ♪ 望遠鏡使えば満月もより大きく見えるし、それに星も見えるじゃない♪
もしかして星も見えるっていうこと忘れてた?」
 完全に忘れていた……。いや考えてはいたんだが、満月に気をとられすぎていたようだ。
「そ……そうだよな。星も見えるよな! よし調節しよう!」
 そう、ここまで持ってきたのだから満月だろう星だろうとUFOだろうと見えるものは全部見てやろうじゃねぇか!!!
しかし、今まで使った事のない(記憶にはない)を無事に調節できるのだろうか? いや……やってみせようじゃないか!!!
俺の最上級の腕を使って完璧に調節してみようじゃあ〜りませんか!!!
ここをこうして……ああして……あっちはこれで良しと……こっちはこうか?
「滝ちゃん、大丈夫? 無理しなくていいよ?」
「いや……大丈夫だ。任せておけ!」
 ここはなんとしてでも……よし……できた!
「完璧だ! 羽衣見てみろ! いい感じにできたぞ!」
 羽衣は望遠鏡を覗き込んだ。完璧のはずだ! 俺の最上級の腕を振るったのだ。間違っているはずはない!!!
「……すごく良く見えるよ! 滝ちゃんすごいね♪」
 よしっ!!! 俺は胸を張ってみせた。俺には不可能なことは何もないのだ〜!
「どれ、俺にも見せてくれよ」
 羽衣とかわって覗いてみることにした。お〜ちゃんと見えてる見えてる。クレーターまで良く見えるな。
 さすがに肉眼では捕らえにくいものだからな。俺はマジマジと見入ってしまった。その時、不意に羽衣に声をかけられた。
「滝ちゃん……あれ……なんだろ?」
 俺は羽衣が指差した方向を見た。しかしきれいな星空が広がっているだけに見えた。
「ちがうよ! ほらあそこ! 何か黒くなっていかない!?」
 そういわれてみれば……なんだなんだ!? 満月が……消えていく!?
「なんだ!? いったいどうなってるんだ!? 雲が出るなんて予報はなかったぞ!」
 明らかにあれは雲ではなかった。何かもっと黒くて……大きな存在……そう……異界のような嫌な存在……。
 俺と羽衣は動くことすらできなかった。見ていることしかできなかった。逃げることもできたが、逃げ出せるような
雰囲気ではなかった。
 やがてその黒い何かは、満月を包み込むようにして消えた。
「ど……どういうことだ?」
 やっと搾り出した言葉がこれだ。実に情けない。でも……本当にどういうことなんだ。その時ふとあのときの会話を思い出した……。

 ……「うん、何かね今夜の満月は特別らしいよ。何でも異世界との扉が開くんだって〜」
 はぁ〜!?と意味不明な声を出してしまった。異世界?そんな情報どこから出てくるんだよ……。
「知らないのか? 結構有名な話だぞ?」
「「うわ〜!!」」
 哲哉だった……おどかすな〜〜〜!!!
「お前はいつからそこにいるんだよ。っていうかどこから沸いて出たんだよ!」
 当然のツッコミだ。しかしやつは……。
「まあ雨より1億倍マシだな、と言ったときにはもう居た。それに沸いては出ていない、歩いて屋上に来たのだ。これでどうだ?」
 さらりと返答しやがった。なんともムカつくやつだ。ん? っていうか最初からいたってことかよ〜!?
 ……その声はすでに哲哉には聞こえていなかった。虚しいな……。
「んで、その異世界がどうとかって言うのは何なんだ??」
 とりあえず話を戻すことにした。気になるからな。
「例の事件のあと有名になったことなんだ。あの事件不可解だったろ? それで2日後の満月のことが噂される様になったんだ」
「でも2日前からならそんなに噂にはならないだろ?」
「これは前々からあった噂なんだ。それが事件があったことで多くの人に広まったというだけのことさ」……

 あれは嘘じゃなかったのか? 哲哉と羽衣が俺を騙すために言ったただのデタラメじゃないのか!?
 そうだよ、嘘だよ! こんなくだらない発想はやめよう。……しかし……。
「滝ちゃん! 見て!」
 また羽衣が指をさした。そこには……そこには……。
「エ……エ……」
 声が出なかった。あまりにも衝撃的だった。そこには……今までいなかったはずの女性が佇んでいたのだ!
「あなたが真月の血を受け継ぐ者か?」
 真月の血何のことだ? それよりなんでここに今までいなかった女性がいるんだ!? そのことを先に口にしたのは羽衣だった。
「あなたは誰……ですか? 今までそこにいませんでした……よね? いつからそこにいるんですか? その鎧見たいな
物はなんですか?」
 俺の聞こうとして聞けなかったことすべて羽衣が代弁してくれる形になった。
「いっぺんには質問しないでほしい。順を追って説明する」
 俺と羽衣は喉を鳴らした。
「私の名前はアデリア。確かに今まではこの時間のこの場所には存在していなかった。つい先ほど招じた時空の歪から参上しました。
これは見てのとおり鎧です」
 その答えは実にあっさりと言われた。アデリア? この時間のこの場所? 時空の歪? 鎧? まったく話がつかめない。
「混乱されるのは無理もない。こちらの時間に来たのは初めて……いや、こちらにこれるようになったのが初めてなのだから」
 こちらにこれるようになった? やはり話がつかめない。そして、ふときずいた。俺と羽衣は、尻餅をついていたのだ。
 と、とりあえず何か話そう。そうすれば何か分かるかもしれない……。そういって俺はようやく話す決心をした。
「き……君はさ……どこから来たんだい?」
「それは場所がどこなのかを聞きたいのですか?」
「あ……ああっ」
 当然それがまず気になる。今までいなかった人がそこに現れた。と言うことは現れるまでは別の場所にいたということになる。
「今のあなたでは理解できないかもしれないが……私は、あなたとは別の次元の世界から来た」
 ……またもや俺達は硬直してしまう。
「べ……別の次元? いったいどういうことなんだ? 俺達に分かるように説明してもらいえないか?」
「難しい意味は特にありません。別の次元から来たという事なのです。この世界には幾つかの次元があります。
あなた方がいる次元、私がいた次元、そのほかにも幾つかの次元が存在しています。その一つから来たという事です。
理解していただけましたか?」
 理解も何も次元があることすら知らなかったのだからそんな説明で分かるはずがない。
「君は……アデリアさんは俺達とは異なる次元にいて、どういう理由かわ分からないが、こちらの次元に来たと?」
「お察しいただけて幸いです」
 別にすべてを理解したわけではないが、この人が俺達の時代に人間であることは理解ができたつもりだ。人間かどうかも怪しいが……。
「じゃあ、どういう理由でこっちの次元に来たんだ?」
「あなたに力を借りたいからです」
 はぁ?? どういうことだ? 力を借りたい? なぜ?
  「なんで、滝ちゃんなんですか?」
 いつの間にか羽衣も立ち上がっていた。
「それは、そちらの男性が……真月の血を受け継いでいるからです!」
 ……それは突然の出来事だった。目の前を何かが通り過ぎた……俺の腕をかすめて!!!
「な……なんだ!?」
 思わず声を荒げる。動物か? それとも鳥か? いや……明らかに俺を狙ってきた。
「くっ……こんなに早く来るとは! あなた達は下がって!」
「いったいあれは何なんだ!? ちゃんと説明しろよ!」
 俺はアデリアさんの胸ぐらを思わずつかんだ。しかしすぐに振り払われた。
「あんたは……死にたいのか!!!!!!!」
 そういってアデリアさんは謎の物体を追ってく。すごい見幕をしていた。さっきまで話していた人とは別人みたいだった。
「滝ちゃん、立てる?」
 羽衣に声をかけられておれはあわてて起き上がる。アデリアさんはこちらに向かって歩いてきていた。謎の物体を倒したのか?
「アデリアさん、さっきはすまなかった。少し気が動転していたようだ」
 本当にすまないと思い、頭を下げた。しかしアデリアさんはあまり気にはしていないようだった。
「でもアデリアさん、あれはなんだったんですか? なんで滝ちゃんを狙っていたんですか?」
 アデリアさんはやや下を向き話し出した。
「あれは……ラグーンの使い魔の一人です。やつは真月の血を受け継ぐ者を狙ってきたんだと思います」
 ラグーン? 適の親玉なのだろうか? その時、例の事件のことを思い出した。
「も……もしかしてだけど、最近起きた不快な事件はその異次元のことが絡んでいるのか?」
 気になったので思い切って聞いてみた。
「はい、調べたわけではありませんがおそらくそうでしょう」
 そんな答えが返ってきた。これだと確かにつじつまが合ってくる。哲哉が言った首から検出された被害者の指の皮膚。
 他殺ではなく自殺ではないかと言う疑い。もしラグーンと言うやつがかかわっているのだとしたら、あるいは……。
「なあ……さっきから言っている、真月の血を受け継ぐ者って言うのはいったい何なんだ? もしかして俺のことなのか?」
「はい、そのとおりです。あなたが真月の血を受け継ぐ者です」
「それで、その真月の血と言うのはんなんですか?」
「真月の血……それは簡単に言ってしまえば魔物に打ち勝つための最大の力なのです」
 魔物に打ち勝つ? 本当にそれが簡単な説明ことなのか?
「すまない良く分からない。簡単でなくていいから、しっかりとした説明を頼む」
 そう頼み込んだ。アデリアさんはまた下を向き少しずつ話し出した。
「真月家は昔から、魔物と戦っていたといわれています。私たちの次元にも真月の血を受け継ぐものがいました。
ですが……真月の血を受け継ぐ者は、先の争いで命を落としました。その争いが今も続いているのです。
このままではこちら次元や、別の次元にも影響が出るでしょう。……先ほどのように。
そこで私が、別の次元に赴き真月の血を受け継ぐ者を探して、私たちの次元に連れて行き、
争いに終止符を打ってほしいと考えているのです」
「べつに、真月じゃなくても争いくらい終わらせられるんじゃないのか?」
「この戦いを知らない人がそういうのは仕方のないことでしょう。確かに戦うことできます。
しかし……謎を解く事と、相手の親玉……ラグーンを打つことだけはできないのです……。
ラグーンを打つには真月の血がどうしても必要なのです!
おねがいします! われわれに力をお貸しください!」
 そういってアデリアさんは頭を深々と下げた。
「ちょ……ちょっと待てよ! 俺にそんなことができるわけないだろ!? 考えても見ろ! 俺はただの高校生だ!
そんなことできるはずがない!」
 少し乱暴な口調でそういった。普通に考えてこの状況を理解するだけでもやっとなのに、謎を解けだの、
協力しろだの争いの終止符を打ってほしいだの、ありえなすぎる。そう考えていると羽衣が俺の前に立ち言い放った。
「勝手なこと言わないで!!! 何で滝ちゃんなの!? そんなの勝手すぎるよ!!!」
「先ほども言ったとおり真月の血……、」
「そんなの関係ないよ!!! 別に滝ちゃんじゃなくてもいいでしょ!!」
 羽衣は必死だった。たぶん俺をかばってくれているんだろう。正直こんな羽衣を見たのは初めてな気がする。
そ んな羽衣を見て俺は決心した。こいつを守ってやりたいと……。
「羽衣……もういいよ。ありがとう」
「滝……ちゃん?」
 羽衣は俺を止めてくれた。でもアデリアさんは俺を必要だといった。この場合羽衣の言うことのほうがまともだ。でも……、
俺が本当にそんな力があって、俺なんかの力でその争いが終わらせられるなら……。
「アデリアさん……俺にできることがあるなら、やらせてもらう!」
「滝ちゃん! 何言ってるの!? この人の言ってることおかしいよ!? きっと騙されてるんだよ!?
昼間みたいに……ひっく……誰かが騙してるんだよ……ひっく……きっと!」
 羽衣は泣いていた……。羽衣の気持ちは良く分かる。俺を心配しているからこそ涙が出ているんだと思う。でも……だからこそ……。
「羽衣、聞いてくれ。俺マジメに考えたんだ。もし……もしもだ。アデリアさんの言っていることがホントで、
さっきみたいに魔物とかが出てくるようになったら、お袋や親父、羽衣だって傷つけるかもしれない……。
それが俺の力でどうにかなるのだとしたら……守りたいんだ! この世界を! お袋を! 親父を! ……羽衣を!!」
「滝ちゃん……」
「俺にどこまでできるかわからない。正直何の役にも立てないかもしれない。……命を落とす可能性だって否定はできない。
それでもこの状況が打破できる唯一の可能性がおれ自身なのだとしたら……やるしかないだろ! 男として!!!」
 俺は胸の内をすべて吐き出した。羽衣の反応は……。
「……ったよ……」
「えっ?」
「わかったよ、滝ちゃん……私……私もがんばってみるよ! 滝ちゃんを精一杯サポートする! 滝ちゃんががんばるなら
私もがんばれるよ! アデリアさん私にできることはありますか? 何でもします! 滝ちゃんの役に立てるなら!!!」
「でも、危ないぞきっと。さっきみたいなやつに襲われるかもしれない……それでもいいのか?」
「滝ちゃんと一緒だから大丈夫だよ!」
 俺達の決意は固まった。
「これが俺達の答えだ。いいよな?」
 アデリアさんは呆然としているようだった。
「正直に言って信じてもらえるとは思ってなかった……いきなり目の前に人が現れて不気味がられると思ってた……。
ありがとう、すごく頼もしい! 羽衣さんも滝さんもありがとう!」
「さん、はなしだろ? 「アデリア」。な、羽衣。俺達は……もう仲間なんだからさ!!!」
 俺は羽衣とアデリアの目を見てそういった。
「ああ!!! ありがとう、滝、羽衣!!!」
「そう決まったら、早く行こうぜ! アデリアの世界へ! 一刻も早くもとの世界を取り戻そうぜ!!!」
「了解! 滝!」
「みんなでがんばろう〜!」
 ……そして先ほどのように月が黒く隠れていく。改めてみるとすごいことになってたんだな……。
「これが時空の歪なのか……」
「さっきのと同じだね」
「ここに一歩踏み入れれば私たちのいた場所にいけます。ですが……戻ってこれる保障はありません。それでもいいですか?」
「俺達は……仲間だろ? 助け合うのが仲間だ。当然覚悟はできている。な、羽衣?」
 羽衣もうなずいた。そう、俺達はすでに決心したのだ。
「では……行きましょう!」
 最初はやっぱり怖かった。でも行かなきゃ始まらない!
 そして、俺達は時空の歪に一歩を……踏み出した…………。

 これが俺達の出会い。そして……これが……始まりの一日……。



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