第三話 〜アデリアの過去〜■ 第三話 〜アデリアの過去〜■


All human existing in the world. Hear a voice of God.
私は後ろを振り向かない。
だって、後ろには崖があるんだから。

私は後ろを振り向かない。
だって、後ろを向くと崖に落ちてしまうから。

天から声が聞こえてきた。
後ろが無理なら、ひたすら前に進みなさい。
                       Ustegnihs.T.Trans
Where does the world begin to move towards? What does the world plan? All began from here…….
All truth on darkness. You yet know nothing.
Let's tell all truth here.



「そっちそっち!」
「こっちは無理〜!」
「じゃあそっちはどうだ!?」
「だから何度も言うけど無理だって〜!」
「あ〜も〜! 何でこんなことになったんだよ〜!!!」

 ……時は数時間前。閉鎖空間を抜け、時空の歪を通って出たときに事は起こった。
 よくはわからないんだが、いきなり大量の岩が転がってきた。数にすると……とにかく大量。
 それが一気に俺たち向けて転がってきたのだ。何でこんなに転がってくんだよ! なんてことを思ってたわけだ。確かにここは岩場で、
 そんなのが起きてもおかしくないのだが。しかし! タイミングよすぎだろ、おい!
 俺達は、逃げて→避けて→隠れて→逃げて→避けて→隠れて……エンドレス。これの繰り返しだ。正直疲れる。
 だが潰されるのも嫌だ。
 ちなみに大きさは色々なんだが、一番大きいもので直径3mくらいのものだ。まぁじっくり見たわけではないからハッキリ
しないのだが、少なくともそれくらいはあるだろう。確実に潰されるくらいの大きさな訳だ。まぁそんなこんなで今に至るのだが、
転がってくる転がってくるって言うほど転がってくるわけだ。正直このままじゃもたないよ……。

「どうする!? このままじゃマジやばいぞ!?」
「はぁ……はぁ……体力的に……きつい……。羽衣は……大丈夫か……?」
「……うん……」
 羽衣は完全に放心状態だよ……。これはヒジョ〜にヤバイ!!! 俺も正直体力が……。
 ああ……どうしよう……。

 もうすぐ行った所に洞窟があるからそこに逃げ込めば大丈夫だよ。
 ……?? 誰だ?? 
 誰でもいいんじゃないかな? 今は君の正義の味方って事で。
 よくわからんが、お前前にも一度話さなかったか??
 そうだったかな? 昔のことは忘れちゃったよ。
 お前はそんなこと言ってばかりだな。
 そう? こっちはそんなつもりは無いんだけどな〜。
 んじゃ洞窟に逃げ込むとしようかな。やばい状態には変わりないしな。
 それがいいよ。それじゃ。
 ああ……。

 ……今のはなんだったんだろう……? でも……。
「アデリア! 羽衣! もうすぐ行った所に洞窟がある。そこに逃げ込もう。そこは安全だ!」
「……そんなこと……なんで……分かるんだ?」
「今はいいじゃないかそんなこと! 状況は災厄なんだ。早くどこかに逃げ込まないと!」
 分かるんだからしょうがない……って状況なんだけど、まぁそんなことはどうでもいいか。
 そんなこんなでほんとに洞窟が見えてきて、無事そこに逃げ込めた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「はぁはぁはぁ……」
「…………」
 皆バテバテだ。しょうがないか、かれこれ1時間近くは走り続けたんだからな。……これが火事場の馬鹿力って奴かな。
 こんなところで体験するとは思ってもいなかった。いい経験……かな??
「はぁ……はぁ……ふぅ〜……これからどうしようか?」
「…………」
 羽衣は相変わらず喋れるような状態じゃないようだ。アデリアは……?
「はぁはぁはぁ……はぁ……」
 出発するのはもう少し待ったほうがいいだろう。俺も万全じゃないし。
「今日はここで休もう。幸いここは安全みたいだし、体力回復に徹しよう」
 ってことでここで野営することとなった。洞窟の中だからテントを張る必要は無い。食事は……無くてもいいだろう。体力が
元に戻ればそれでいいさ。羽衣とアデリアはすでに眠っている。疲れすぎたんだろう。俺も実際はそんな感じだ。だが今の状況
の整理くらいはしておく必要があるだろう。
 今は……岩に追われて大分聖なる焔からは遠ざかってしまった。明日はまずもとの位置に戻り、そしてそこから聖なる焔のほうに
向かわなければならないだろう。十魔が言うには時空の歪から出たところから上(坂になってた)に登り頂上に行く必要があるってこと
だから……え〜っとあの時頂上は見えていたから……はぁ〜……考えるのやめよう。
 と・に・か・く! 明日は元の場所まで戻る必要があるってことだ。……無事に戻れればの話だが。あの岩は明日にはなくなっているの
だろうか? 今日の感じだと無くなりはしないといった勢いだったが……。それも明日にならないと分からないか。
 整理をすることはこんなところだろう。俺も休むか、明日はがんばんないといけないんだからな。そして俺は横になる。
 ……ん??……これは……夢か? んにしては映像は真っ暗だ。へんな夢だ。こんな夢はどうでもいい、俺は寝る。

 洞窟たどり着けてよかったね。正直ひやひやしたよ。
 ああ、俺もどうなることかと思ったよ。でもマジで助かった、ありがとな。
 お礼を言われるようなことじゃないよ。そこに洞窟があるからそう言っただけなんだから。
 それでも俺達にとっては「ありがとう」だ。
 ……じゃあ受け取っておくよ。
 ああ、そうしてくれ。それのほうが俺としてもうれしいからな。
 ふふっ♪
 なんだよ? 気持ち悪いな。
 ごめんごめん。でもこんなことでうれしいと言ってもらえるとは思わなかったから。
 そんなことかよ……。でも俺だってうれしいと思うときは多々あるんだから不思議ではないだろ?
 そうなんだけど……、まぁいいや。
 ……一つ質問していいか?
 別にいいよ。なに?
 お前は……誰だ?
 ……キミの近くににいる人。
 はぁ!? なにいってんだよ。意味わかんねぇぞ!?
 いずれ分かるよ。……ちなみに男だと思う? 女だと思う?
 ……難しいけど……女かな?
 何でそう思うの?
 なんとなくかな。確信は無いけどな。
 キミは……いずれ驚くよ♪
 よくわからん。まぁ時がくれば分かる、ってことなんだろ。だったら焦らないさ。
 そうだね。時が来れば……ね。さぁそろそろ起きようか。
 もう朝か? まだ寝てたい。
 でも二人は起きてるみたいだよ。キミも起きたらどう??
 はぁ……起きるか……。
 長々とごめんね。んじゃまたね。

 意識が戻ってくるのが分かった。今夢を見ていたんだろうか……。なんか話してたような……なんだったろう?
 その時一つの顔が俺の顔に近づく。それは……。
「起きたのか滝。おはよう、羽衣はもう起きてるぞ」
 アデリアだった。この二人は何でこんない早いんだよ。昨日あんなにばててたのに。火事場の馬鹿力は翌日には消えるものなのか??
「あ! 滝ちゃん起きたんだ。おはよ〜♪」
 なんか音符ついてるし……。なんか疲れる……。何てこと言ってられないな。話を持っていくか。
「聖なる焔のことなんだが……」
 ………………。
「てな感じだ。問題は……あの岩」
 一晩たったが岩は転がり続けている。明らかに普通の傾れではない。何か原因があるはずだ。しかし原因なんてすぐには分からない
だろう。って言うことは……。
「突っ走るんだね♪」
「まぁそんな感じだ。アデリアはこれに対してどう思う? 意見を聞かせてほしい」
「慎重に行きたい……これが本音だが、この状況ではそうも行かないだろう。よって……突っ走るというのを許可する」
「そうだと思った。よしさっそく行くか!」
 俺達は洞窟を飛び出た。といきなり頭上を岩が跳び越していった。こえ〜……。そして俺達は前を向く。
「行くぞ!!!!」
 俺の合図で頂上向かって走り出した。基本的に俺が先頭に立ち剣で岩を斬りながら進むといった隊形だ。もちろんアデリアと羽衣の
補助があるからできることなんだが、怖いことには変わりない。早くこの状況を脱したいものだ。
「大丈夫滝ちゃん? 辛くなったら言ってね」
 俺は頷く。羽衣は特に補助魔法の質が高いらしく、回復魔法やら、能力アップの魔法やらを覚えていくということらしい。他にも
まだあるらしいのだが今はこのあたりをがんばっているらしい。だから補助面は心配ない。羽衣は……信頼に値する奴だからな。
「チャージ完了だ。行くぞ滝! 下がれ!!!」
 アデリアはこの間走りながら魔法の詠唱をしていたのだ。一気に岩を潰すためにな。
「聖なる風よ 全てのものを吹き飛ばし 風の聖域とす エアロウィンド!!!!」
 風が次々と岩を破壊していく。持続効果は約10秒。その間は俺は少し休めるといった感じだ。その後また俺が前衛を行く。
 それを羽衣が補助し、その間にアデリアが詠唱する。これが俺たちが考えた作戦だ。なかなかだろ?
 頂上はまだ見えない。体力は持つだろうか? アデリアは大丈夫か? 羽衣は大丈夫か? やはり気になる。俺は一応男と言うこと
もあってそれなりの体力は持ち合わせている(スポーツもやってたしな)。しかしアデリアと羽衣は女性だ。心配は残る。
 こんなことあの二人に言ったら怒られるだろうがな。まぁ信頼してるからな。一刻も早く目的地に着かなければならない状況だ。
 少しくらいの無理はアデリアも羽衣も俺も覚悟している。今が……正念場だ!!!
「この調子で頂上まで行くぞ!」
 俺は声を上げる。モチベーションは常に高く! 俺がスポーツをやって身に着けた知識の一つだ。重要だから皆も覚えて置くように!
 そして俺達はスピードを上げる。俺達人間には底力がある。今がそれの使い時だ。精一杯、振り絞る!!!
「邪魔だーーー!!!!」
 ……それから小一時間走り続けた。下りよりやはり上りのほうが辛かったのだろうか? 今はそんなこと分からない。
「頂上だよ! 滝ちゃん!」
「ああ!!!」
 ついに頂上が見えてきたのだ。岩は今も転がってくる。途切れる気配は無い。この原因は頂上にあり! いざ山頂へ!
 俺達は頂上に到着した。そこには……。
「遅かったじゃないか。真月の血を受け継ぐ者よ」
「お前、誰だよ?」
「フッ、フハハハハ!!!!」
「いきなり笑うとは礼儀がなってないな」
「フハハ……フゥ〜……気づいているんだろ?」
 こいつはやはりそうなんだな……。あまり信じたくは無いがな。でも……目の前にいる奴は!!!
「お前の親玉は誰だ!?」
「ああ!? お前も礼儀がなってねぇなぁ。俺がそんなこと喋るわけ無いじゃねぇかよ。バ〜カ!」
「まぁそうだよな。お前もそこまで馬鹿じゃないよな。じゃあそろそろ自己紹介しようか。
俺は……真月滝、真月を受け継ぐ後継者だ」
「フン……。俺は……リーダーに選ばれし最強の剣豪。ベリウス!!!」
「岩を落としていたのは貴様か!?」
「当然だろう。お前達を消すのが目的だからな!」
 やはり自然現象ではなかったか。予想はしていたが……。魔法ってことだよなおそらく。てことはこいつは魔法が使えるってことか。
 厄介だな。俺は魔法が使えない。もし一騎打ちを持ちかけられたら……くそ! どうする打開策でもあるのか? そんなものは
無いに決まっている。全員で嗾ける、これしかないようだな。
「殺気だっているところ悪いんだがな。俺の相手はお前じゃない。俺の相手はお前だ!」
 奴は剣をかざした。その先には……!!!
「私……と言うわけか」
 ベリウスはアデリアを指したのだ。何故俺じゃない!? 狙いは真月の血じゃないのか!?
「俺は強い奴と戦いたい。それだけだ。心配すんな。あとの二人もこいつを片付けた後に殺してやるからよ!!!」
 ベリウスはアデリアにいきなり斬りかかってきた。
「くそ! 羽衣! 俺達は一旦下がろう」
「でも、アデリアが!」
 アデリアならやってくれる。十魔のおかげで能力は上がっているはずだ。今のアデリアなら……行けるさ!
 アデリアは剣で受け止めはじき返した。さすがアデリアだ、隙がまったく無い。今の場合よければ隙ができるところだった。
 しかし、それを回避するためにベリウスの攻撃を受け止めはじき返したのだ。
「やるじゃねぇか! やはりお前を選んでよかったよ。アデリアさんよ!」
 あいつアデリアの名前を知ってやがる!? 何故知っている!?
「お前は有名だからな〜アデリアさんよ!? この戦闘内でお前の正体を……」
「だまれーー!!!!!!!!!」
 アデリアは声を張り上げベリウスに斬りかかった。それをベリウスが受け止める。しかし、アデリアのあんな声を聞くのは初めてだ。
 一体何があったんだろう……。
「そんなに声を張り上げるなよ。お〜コワイコワイ。そんな大振りはやめたほうがいいぜ!?」
「馬鹿にするなーー!!!!!!!」
 アデリアはまたもベリウスに斬りかかった。それをベリウスは避けた。そして!
「だから言ったのにな〜。くらえ!!!!」
 ベリウスはアデリアに向かって魔法で攻撃を仕掛けてきた。それが見事直撃した。その瞬間!
「あ……あ……や、やめろ……」
 頭に何かが入ってくる。これは……なんだ……??

 ここは……どこだ? 今までベリウスと……。ここはどこだ?
「滝ちゃん、ここどこだろう? アデリアはどこ行ったんだろう?」
 そう、もう一つのおかしなこと。アデリアがいない。今までベリウスと戦っていたアデリアがいない。もちろんベリウスもいない。
 いるのは俺と羽衣だけ。それに場所が違う。俺達だけどこかに飛ばされた……みたいな感じになっている。
 しかし普通の場所ではない。なぜなら……空、大地、全てが灰色なのだ。灰色の世界……まるで死の世界のようにも見えてしまう。
「なぁ羽衣……ここどこだと思う?」
「私……う〜ん……ごめん、わからない……」
「だよな。へんな質問して悪かったな。とりあえずこうしていても始まらない。少し歩いてみよう。何か分かるかもしれない」
 俺と羽衣は歩き出した。目的地なんてどこにも無い。どこに向かってるかなんてまったく分からない。
「あれは……人!? 行こう、羽衣!」
「うん!」
 俺と羽衣は無意識に走り出していた。ここの事を聞くチャンスだったしな。それと、これを逃したら帰れないような気がした
からかな。不思議とそんな感じがしたんだ。
「なぁ君? ちょっといいかな?」
 その少女は俺には気づいていないかのように遊んでいる。気づいてないのか? そんなはずは無いだろ。
「なぁ聞こえて、なっ!!!!!!」
「なに……どういうこと??」
 意味不明な事態が起こった。現実では考えられない出来事。俺はその少女の肩に触れようとした。だが……触れることは
できなかった。
 と言うよりすり抜けたのだ。俺の手はその少女の体をすり抜けたのだ。一種の恐怖だ。お化けと言うのはこんな感じなのあろうか?
 実体を持たないというのはこんな感じなのだろう? ここは一体……。
「なぁお嬢ちゃん、ちょっといいかな?」
 別の人間が来てその子に話しかけたのだ。その少女はこの人間に気づいているようだ。俺達が気づかれなかったのは何故だ? 「なぁに??」
「この二人を知らないかな? 僕の友人でね、会いに来たんだけど見当たらないんだよ。知らないかな?」
「知ってるよ。私のお父さんとお母さんだもん。こっちだよ♪」
 少女はその人間を案内しようと走り出した。
「どうする? 俺達もついていってみるか?」
「うん、行こう」
 俺達はついて行くことにした。やはりじっとはしてられない。帰れる帰れないは別としてな。
「ここにいるの。どうぞ〜♪」
「有難うお譲ちゃん」
 そう言うと建物の中に入っていった。その直後!
「貴様! 何故ここに!」
「やっと見つけたよ!!! お二人さん、死ね!!!!!!!!」
「母さんはアデリアを!!!」
「逃がすか!!!!」
 パンッ!!! パンッ!!!
 銃が放たれた。建物の外に居たからどうなったかは分からない。しかしそれ以降二人の声は聞こえて
いない。おそらく……。それよりも名前だ。
「アデリアと言う声が聞こえたよな」
「うん。たぶん今一緒にいるアデリアだと思うよ。あの少女がアデリア……か」
 実際そうは見えない。かなり華奢な感じだ。今のアデリアからは想像もできない。まるで別人、そう同じ人ではないように見える。
 本当にアデリアなのか? 女の子は変わりやすいというが、そんなレベルには見えない。これも謎だな。
「お父さんとお母さんに会えた〜??」
「ああっ、君のおかげで会えたよ。ありがとう……」
 そう言うと人間は去っていった。その後アデリアなる少女は家の中に入っていった。中では無残で……残酷で……。
 アデリアは声を失っている。立ち尽くしたままで、声も出ない。この少女は今何を思っているんだろうか? 自分のせい?
 お父さんとお母さんはどこ? あの人は誰? 何でこんなことに? …………。
「あっ……あっ……うわあああぁあああああああぁあああぁああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 少女は狂ったかのように頭を地面に叩きつけ始めた!
「おっオイ! アデリアやめとけ!!」
「アデリア! 駄目だよ!」
 だが俺達の声は届かない。もちろん止めるすべも無い。声をかけても体を止めようとしても全てがすり抜けていく。俺達は……
この世界では……完全に無力だ。
「私のせいで……私が……ヒック……あんな知らない人……信じたから……ヒック……。前から……皆に……あんなに
言われてたのに……」
 どうしようも無いこと、過ぎてしまったこと。後悔が残る。残るのは後悔と自分。たった二つ。偽りようの無い真実が、ただその
真実だけが目の前に転がっている。こういうとき人間は無力だ。誰であろうと起こってしまった事は変えられない。
 真実はどうやっても変えられない。この少女……いや、アデリアも……。
「私は……私は……私は!!!!!!」
「なぁ羽衣。俺達は……アデリアの何を知っていたんだろうか?」
「滝ちゃん……」
「俺達はきっと勘違いしていた……。アデリアのこと仲間だ仲間だって言ってたけど……、ホントはどうだったんだろう?
アデリアの事なんて何も知らなかった。知ったか……だったんだ。今のまんまじゃ俺達は、駄目な気がする。
アデリアのこと助けないといけないんだ」
 そう……真の仲間になるために!!! 言葉だけじゃない、上辺だけじゃない仲間になるために!!
「私は……強くなる……誰よりも強くなる……。言葉遣いも……一時の感情流さないように……全て捨てる……。
うわああぁあああああぁああああああああああ!!!!!!!!!!!」
 その後アデリアは変わった。魔法なのだろうか? 光に包まれたアデリアは姿が変わった。言うなれば、今のアデリアのなったって
感じだ。決意……それを思わせる感じかな。二人のアデリア、過去と現在の違い、姿の変化、言葉遣いの変化。
「アデリアは……まぁいいや」
 きっと言葉はいらない。そんな感じがした。根拠なんてものはまったく無いが、自然とそんな感じがした。
「アデリアはアデリアだもんね」
 ああ、もちろんだな。アデリアはアデリアなんだからな。まあ意味はわかんないけどな。
 そのとき、この世界に異変が起きた。なんていったらいいのかわからないが……。
「これはなんだ!? どうなってるんだ!? 羽衣! 大丈夫か!?」
「私は大丈夫だよ。それよりこれは何!?」
 この世界が……崩壊しようとしているのだ! 空が割れ大地が崩れ、建物が次々に倒れていく。
「羽衣、俺につかまっていろよ!」
 羽衣は俺の腕にしがみつく。もちろん俺達にできるすべは無い。ただ見ているだけ。無力の自分が腹立たしい。
「羽衣! 絶対に離れるなよ!!!」
「滝ちゃんー!!!」
 ……世界は壊れた……のだろうか? 正直分からない。意識は……よくわからない。羽衣は? 目が開けられない。ここは
どこだ? わからない。さてどうしようか。おっ! 光があるのが分かる。近づいてきているのか? 光が近くに……。
「ここは……?」
 目の前にはアデリアがいる。ベリウスもいる。この状況は……。そうか! アデリアがベリウスの魔法攻撃を受けてそれで。
 と言うことは先ほどまでの世界は? 少女は? 何がどうなっているんだろう。羽衣も不思議そうに周りを見渡していた。
「さっきの世界とは……ちがう……よね??」
「おそらく。元に戻ってきた……のだろう」
 ぎこちない会話、まぁ状況が読めないからしょうがないのではあるが。さっきの世界はなんだったのだろうか……??
「フハハハハ!!! やっと戻ってきたのか! 遅かったじゃねぇか」
「貴様何を言ってるんだ? あの世界のことを知っているような口ぶりだな」
「やはり知らなかったようだな。この女の過去をよ!?」
 アデリアの過去。あれはやはりアデリアか。しかし過去? 俺達はどうしてしまっていたんだろう。
「この女は俺様の魔法にかかっている。この魔法は過去を投影する魔法だ。お前達が知らない、過去を知らしめるための技なんだよ!」
 だから俺達は別のモノクロ世界にいたと? 信じられるかよそんなこと。だが……あの世界を説明するにはもっともらしい答えって
ことになる。じゃあ俺達は本当にアデリアの過去を見てきたってことなのか? 確かにつじつまはものすごく合う。
 今アデリアはベリウスの魔法にかかっている。俺達は知らない世界にいた。アデリアと呼ばれていた少女がいた。その少女は
姿を変え、今のアデリアとそっくりなまでになっていた。年月を重ねれば確実にアデリアになるだろう。
「過去を見てきたんだろ、ええ!? どうだったよ!? この女の残酷な過去はよ。今のこいつは偽りの姿なんだよ!?
大切な人をも死に追い詰める悪魔の子なんだよ!!!!」
「や、やめろ……!」
 心の奥底をつつくなんて非道な奴だな。
 アデリアが悪魔? そんなはず無い。アデリアは俺達の仲間だ、悪魔なんかじゃない。
「ベリウス、貴様は決定的な勘違いをしている」
「な、なんだと!?」
「そうだね、滝ちゃん。勘違いしてるね♪ こっちはOKだよ〜」
 俺がベリウスと言葉を交わしている間に、羽衣はアデリアを助け出した。魔法には魔法で対抗といったところだ。作戦通り。
「アデリアが悪魔とかいったよな? それがどうした? もし仮にほんとに悪魔だったとして何が変わる? 何も変わらない。
偽りの姿? そんなものどうだっていい。俺達は信頼し合える仲間、信頼し合える友だ! 俺達の絆がそれごときで途切れるとでも
思ったのか?」
 そう、俺達の関係は変わらない。姿なんて関係は無い。今のアデリアが俺達の全て。誰になんて言われようと変るものでもない。
「それにアデリアは悪魔なんかじゃないよーだ! ね〜滝ちゃん!」
 俺は頷く。本当に悪魔と言う存在が今いるのだとしたら、それは……。
「お前が真の悪魔なんだよ!!」
 俺は剣を勢いよく抜き、相手に斬りかかった。攻撃は外れたが、ベリウスと俺達の距離が開いた。俺達が体制を
立て直すには十分な距離を稼げたと思っていいだろう。後はアデリアか……。
「アデリア立てる?」
「私は……私は……駄目なんだ……。私は……」
 俺たちには知られたくなかった過去、だが知ってしまった過去。今のアデリアは自分を閉ざしている。心を開いていない。
 どうしたらいいだろうか? 今の俺達はなんて声をかけたら良い?
「羽衣……俺はベリウスを引き付ける。何とかアデリアを!」
 羽衣は俺のところまで来て言った。
「それは滝ちゃんの役目じゃないかな? ベリウスの相手は私がやるよ〜」
「だが奴は正直言って腕が立つみたいだし、羽衣じゃ荷が重い。やはりここは俺が!!」
 そういってるのに……羽衣は……ベリウス向けて走り出した!! 人の話を聞け〜!!
「もう遅いよ〜♪ アデリアお願いね〜♪」
 はぁ〜……大丈夫かよおい……なんか秘訣があるみたいなことも囁いてたけど……。まぁとにかく俺は。
「大丈夫か? 疲れてないか? 魔法にかかってたんだろ、怪我とか無いか?」
「…………」
 完全に閉ざした状態ってか。う〜ん……どうしようか。俺がかけられる言葉……。アデリアの心を開くことができる言葉……。
 何かあるだろうか。アデリアの過去を知ってしまった今、安易な言葉はかけられない。余計に辛くするだけかもしれない。
「…………」
「…………」
 だっだめだ! 何か喋らないと! え〜と……え〜と…………あっあれ?? まっくら? はい? え〜この状況は??

 またここに来たんだね。
 お前か……ここは一体どこなんだ? 俺はこんなところに来た覚えは無いぞ?
 う〜ん……どこだろうね♪
 ガクッ!! オイオイ……。自分のいるところだろ?
 居たくているわけじゃないからね。
 ?? どういうことだ?
 ……ここはね、心の扉の内側。
 心の扉の内側? なんだそれ。
 誰しも閉ざしたい過去がある。その過去を閉ざしておく場所。それがここ……「隔離空間」。
 隔離空間……。
 そう……いろんなものを閉ざしておく場所。ここは普通は閉ざせないものを隔離しておく場所。
 お前は、隔離された……心か……。
 ……うん。私はね。いけないことをしたの。やってはいけないこと。その結果一番大切なものをなくした。それが
私がここにいる理由。
 やってはいけないことか……。今俺の仲間もそんな状態なんだ。過去にいろいろ合って心を閉ざした。もしかしたらここに
いるのかもな。
 …………。
 ん? ものスゲー唐突だけど……なんで俺はここにいるんだ??
 ……それが分からないんだよね。こんな人は始めてみたもん。これが「真月の血の力」なのかもね。
 お前は誰だ。なぜ真月の血のことを知っている? 
 だってずっと貴方のこと見てたもん。
 見てた? ここで見てたって言うのか?
 昨日も話したよね。私は「キミの近くににいる人」そう言ったよね。そのまんまの意味だよ。
 まっまさか……お前は……アデリアの心!?
 そう、その心。何年も昔に閉ざした心。キミは見たんだよね……私の過去。
 ああ……見てきた。と言うより見せられたって言うのが正解だ。でも見たのは事実。それは変わらない。
 今の私は閉ざした心を更に閉ざそうとしている。このままだと……心が無くなって……。
 危険な状態……そう言うことだよな。それはなんとなく分かる。
 今は貴方しか頼れる人がいない。どうか私を……私を……救ってください!!!
 俺の心はすでに決まっている。お前も気づいているだろ俺の気持ちは。
 うん……ありがとう。私を……よろしくね♪

 ハッ!!! ここは……もとの場所か。あれから時間は……進んでいないのか? 時間は進んでない。あの隔離空間とは一体……。
 っとと、そんなことより今は……。かける言葉はもちろん決まっている。
「アデリア……心、取り戻そうか?」
「え……?」
「なぁアデリアは外に出たいだろ?」
 俺は二人のアデリアに話しかけていた。目の前にいるアデリア、それと……心を閉ざしたアデリア。
「俺はさ、全てを受け入れていきたいんだ。それは羽衣も同じ気持ちだ。俺達はアデリアを待ってる。ずっと待ってる。だから……
一歩を踏み出していこう! 俺達は全てを受け入れる。こんな言い回しじゃダメ……かな??」
「滝……。……私は誰も信じてはいけないのだと思っていた……。あの森で、アリアから助け出してもらうまでは。あのとき
何かが動いたんだ。私の中の何かが動いていたんだ。それは心だったんだな。最近よく見てたんだユメのような夢を。
私が私と喋っている夢。不思議な夢……。今はそれの意味が分かる。私は……殻を破りたい! 自分を取り戻したい!
協力して……もらえるだろうか?」
「何度も言ってきただろ? 俺達は仲間だ。仲間は協力し合う、助け合う。俺はアデリアの手伝いを進んでやりたいと思う。いいか?」
「ありがとう、滝。本当に……ありがとう……」
 アデリアの目には涙が見えた。アデリアはそれを隠そうとしていたが見えてしまった。アデリアは心のそこから泣いている、
そう思えた。
「んじゃ! まず何をしたらいい? 何でも言ってくれ」
「だが、羽衣は……」
「あいつはほっとけ。今はまだ大丈夫だ。危険になれば行けばいいさ」
 俺には羽衣のことが手に取るようにわかる。幼なじみの特権かな?
「分かった。それじゃまず……」
 俺達はアデリアの心を一つにできるように準備を行った。なんか特殊な魔方陣のようなものを出現させて……以上!
結局俺は何にもしてないよ……。
 そのアデリアは魔方陣の真ん中に立った。
「離れてて。これはちょっと危険だから。近くにいたら……」
「俺はここにいる。アデリアは失敗しない、だから危険はない。違うか?」
 アデリアは笑顔を見せて頷いた。笑顔……やはり笑顔は似合う。過去のときのアデリアも笑顔が似合っていた。心は閉ざしても、
仕草までは変えられなかった。アデリアは戻ろうとしていたのかもな。昔の自分に。
「我 心を閉ざし者 わが身を賭け 抗う心を 世界の秩序に任せ 今ここに 我を確立す」
 魔方陣が光りだす。そしてアデリアを包み込む。この光は過去のアデリアが変わったときの光と同じ光だ。感覚で分かる様な気がする。
 これが心を開閉する魔法と言うわけか。ん? なんだか様子が変だぞ? 光がさっきより大きくなってないか!?
「あ……あ……わあああああああああああ!!!!!!!」
「アデリアー!」
 これは失敗なのか!? アデリアは今も光に包まれている。助けに行こうとしても弾かれてしまう。俺は魔法使いではないから
 かき消す方法も分からない。中で何が起こっているんだ!? クソッ!! 俺は、助けられないのか……?
「うわ……なんだこれ……うわあああああああああああ!!!」

 ……なんか最近よく意識が違うところに行く気がする。どこかはわかんないけど。あっあれは……。
「お〜い! アデリア!」
「滝! 何でこんなところにいるんだ!?」
「たぶん……アデリアの魔法に巻き込まれた
「だからあれだけ離れろといったのに……」
 俺は信じていたから、信じていたかったから。それだけの理由でいいだろ? アデリア。
「まだ迷ってるんだろ? だから術が完成していない。違うか?」
 返事が無いところを見ると当たりか。まぁ簡単には受け入れられないものだからな、しょうがないではあるが。このままだと……
俺達は帰れない? やれやれ……。そのとき言葉を区切るようにアデリアが話し出した。
「……迷ってはいない……と思う。でも……怖いんだ。たぶん姿も変わってしまう。言葉遣いも変わってしまう。意識だけは同じだが、
違う人になると思う。それが……コワイ……」
「お前が使う仲間は偽りの意味なのか? だから怖いのか?」
「ちがう! そうじゃない! そうじゃないけど……けど……」
「なら安心だ。おっ! この光は……。俺はどうやら先に戻っちまうみたいだ。待ってるから、戻ってこいよ。アデリア……」

「き……滝……滝!!」
 誰かが呼んでる。俺は気を失っていたんだな。俺としてはまともに現実に居たいんだがな。しかも今は眠い。無性に眠い。
 このまま寝てた……い……。おれは……揺れてるよ……。起きるからやめろ〜……。
「スァ! 起きるって!!!」
 目の前には……見知らぬ少女? えっと……どなた?
「ここは……あそこには羽衣とベリウスが戦ってる。アデリアは、あれ? いない? と言うことは……!」
「あっあの……大きな出してごめんなさい!!」
 もしかして……まさかして、この少女は……確かに少しは面影があるかも……。とにかく名前を言ってみよう。
「こっちこそ大きな声出してごめん。それより、お帰り……アデリア」
 少女は泣きながら俺に抱きついてきた。アデリアだ。帰って来れたんだな。良かった……。
「良かった、本当に良かった……。成功したんだな」
「うん! でも前の私とはやっぱり姿も言葉遣いも……」
「これがアデリアの姿。この姿が全て。俺は好きだぞ、その姿」
 またまた抱きついてきた。だいぶ丸くなったって感じだな。これがこれからのアデリアだ。本当の……アデリア。よくわかん
ないけどなぜかこの姿のほうが自然に感じる。アデリアの名前にマッチしているって感じだ。
「うん? 武器も変わったのか??」
「え……うん。昔はね、双剣だったんだ。そういっても稽古しかやってなかったんだけどね。実践はこれが初めてになる」
「そっか……。んじゃ最初のミッションだな。羽衣は今奮闘中だ。アデリアならどうする?」
「もちろん助けに行く! 仲間だもんね♪」
「よし! 行こうか! アデリアにとっても俺達にとってもまた新たな一歩になるだろう。今度は心を奪われないようにしっかり
歩いていこう」
「うん♪」
 待ってろよ羽衣! 俺と新生アデリアが助けに行くぞ!!! さて……乱入だ!!!!
「はぁぁぁぁぁ!! うりゃ!!!」
 俺はいきなりベリウスに斬りかかった。しかも見事ヒット!! いえ〜い♪ 今の俺は乗りに乗ってるよ〜♪
「よっ! 羽衣。助けに来たぜ。アデリアと一緒にな」
 羽衣は後ろを振り向く。もちろんそこにはアデリアがいる、姿の変わったアデリアがな。どう反応するかな? 見ものだな。
「か、か……かわいい〜〜〜〜♪」
 羽衣はいきなりアデリアに抱きついた!! なんだと〜!!!
「えっ、えっ? どうしたの??」
「だって、だって……かぁいいんだもん〜〜〜〜♪」
 失態だ……。そうだった……忘れてた。羽衣は、かわいいもの好きだった!!! 今のアデリアは見事なまでに羽衣に
マッチする姿になっている!! 前の姿も気に入ってたみたいだが……今はそれ以上だ!!
「これじゃ戦えないよ〜」
「大丈夫! 後は滝ちゃんに任せよう! と言うことでよろしく〜♪」
 おいおい……よろしくって……今までのマジメな展開はどこに行ったんだ? いきなりお茶らけか? しかも……戦うの
俺だけかよ!!
「……貴様ら……俺のこときわどく忘れてるだろ……」
 ベリウスの声が聞こえた。すまん! 忘れてた。っと……仕切りなおして……。
「あとは俺が相手してやるよ。試したい技もあるしな。行くぞベリウス!!!」
「貴様ごときに俺が倒せるか!!!!」
 今の俺は何でもできる気分だ。なんていうか、そう! 何かが開放された気分! 不思議で、気持ちよくて、何かが俺の中に
流れ始めた感じだ。なんだろうなこの力は!!! 漲ってくる力は!!!
「はぁぁぁぁ!!!」
 俺は剣を勢いよく振り下ろす。ベリウスもそんな簡単には斬られてくれないようであっさり避けられる。そして少しの硬直……。
 そして……時が動く!! 相手が俺に突進してきた。俺は臨戦態勢に入る。避けるか!? 受け止めるか!? 受け流すか!?
 ベリウスは俺の頭上を飛び越え背後に回ってきた。後ろからの攻撃とは悪役らしいな。だが!!
「その程度では俺は倒されない!!」
 俺は奴の攻撃を見事にかわした。さすがの相手も驚きを隠せないといった表情に見えた。これはアデリアに言われたことだが、
俺の直感、反応はかなり高レベルの域に達していたらしい。それプラス今のポテンシャル! 正直言って今の俺は……つよい!!!
 決して引けはとらないはず!! 今なら……勝てる!!
「今の俺はつよい!! お前には……負けない!!」
 俺の剣に風が集まる。もちろん無意味にやっているわけではない。もちろんこの後は……。
「くらえ! 斬撃破!!!」
 俺の攻撃は真っ直ぐにベリウスに向かっていった。あたれ……あたれ!!
「その程度の攻撃で我は倒れぬ!!!」
 奴は俺の攻撃を受け止めた。まぁ簡単には勝たせてはくれないか。でも手ごたえは十分!
「お前、素直になっとけよ今のうちに!? でないと後悔するぜ!」
 ベリウスは少しよろけている。確実に俺の攻撃は効いている。今が押し時だ!!
「まだまだ行くぜ!!」
 俺は剣を振り上げ突っ込む。もちろんベリウスも体制を作ってくる。躊躇する、そんな選択義もあるだろう。だが、俺にはそれが
浮かばなかった。もちろんこちらが優勢だからだ。
「てやぁ!!!」
「はっ!!!」
「うりゃ!!!」
 俺は連続で奴に切り込んだ。よろけていたベリウスは見事に全撃ヒットする。だがベリウスも負けてはいなかった。タフって
いうのかなこう言う奴を。ベリウスは立っている。あの連続攻撃に耐えたって言うのか!?
「やはりその程度か……。あの技には驚かされたが力量はそれまでか……」
 ダメージを受けていないのか!? そんなはずは……。俺の攻撃は確かにヒットした。手ごたえがあったから間違いは無い。
 くそっ!!! なら今の攻撃の倍以上の攻撃を仕掛けるまでだ。
「はぁぁぁぁ!!!」
 俺は先ほどと同じように斬りかかった。先ほどと同じくベリウスは体制を作ってくる。俺は剣を引き……勢いよく突き込む。
 ガキーーーン!!!!!!!
 俺の攻撃はヒットしなかった。俺の攻撃は受け止められたのだ。
「お前の自信は認めてやろう。確かに強い。しかし俺には勝てなかったようだな。これで終わりだ」
 俺が優勢だった。確実に俺は強かった。相手もよろけていた。俺に負ける要素がどこにあったというのだ? 俺はこの攻撃を受けたら
どうなるのだろう。ガーゴイルの時もそうだったが、怖い。死ぬことの恐怖と言うよりは仲間にあえなくなる怖さ。
 俺は仲間といるときが一番楽しい。まだこの世界に来る前、普通に生活していた頃は団体スポーツをよくやっていた。
 だから仲間の大切さがよくわかるし、仲間なしには今の俺がないと思ってるくらい大事だ。その仲間に会えない。
 怖い……怖い……!!
 誰か……助けて!!!
「「合体魔法!! ミックスファイア!!!」」
「ぐわぁ!!!」
 ベリウスに魔法が当たったようだ。俺はベリウスから開放されたようで、その場から少し離れた。
「何が起こったんだ??」
「私達を忘れてるでしょ??」
 そこにいたのは……。
「羽衣、アデリア!!」
 俺は仲間は大切だと思っている。信じていれば仲間とは心が通じ合う。仲間がいてくれるから戦える、仲間がいるから俺がいる。
 まさに今、それが立証されたって感じだな。
「くっ、クソッ!! お前らいつの間に俺の背後に!?」
「だって隙だらけだったから。ね、アデリア」
「うん。滝が与えたダメージがあったから、無理も無いね」
 俺が与えたダメージ?? 俺はダメージを与えられていたのか?? だがベリウスは倒れなかった。俺は敗北した。
 なのにダメージを与えられていたというのか??
「滝! これを使って!」
 アデリアが俺のほうに双剣の片方を投げた。俺は受け取り剣を見た。きれいな剣だ……。アデリアの双剣か。
「最後のとどめ、任せたよ〜」
 俺がトドメ……。でも、俺は一度敗北した。俺の攻撃では奴は……死なない!! どうしろってんだよ!?
「説明は後。早くトドメを! 試したい技もあるんでしょ!」
 試したい技……そうか! まだこれがあった! 俺に与えられた最後のチャンスか。言うなれば九回ツーアウト満塁、サヨナラ
の場面。最後の打席は俺、4番。俺の一振りでこの試合が決まる。ホームランで勝ち。三振で負け。それ以外の結果は無い。
俺の結果は……。
 ホームランだろ!!!
「行くぞ!! これが最後の打席だ!!」
「返り討ちにしてくれる!!」
 俺は一歩下がり踏み込んだ。この技はスピードが命。スピードが落ちると技は完成しないといっても過言ではない。相手も俺
めがけて突っ込んでくる。まずはこれを避けないと話にならない。先ほどまでの戦闘で奴の行動パターンはある程度分かる。
ここでの選択義は……これだ!!
「はっ!!」
 思い通りの行動をしてきた。それを俺は受け流す。ここまで分かっていて、受け流す技術とかも持ってるのに何でさっきあんなことに
なったんだろう。まぁあとで考えよう。今は……ホームランを打つ。それだけ考えていよう。
 俺は更にスピードを上げる。……これくらいでいいか。よし……チャージ終了。いい距離だ!!
「風のごとく切り刻む 閃光流星斬!!」
「だまれだまれだまれ!!!!! 勝つのは俺だ!!!!!!」
 剣が……交じり合う!!! 
 ……二人とも倒れない。どっちが勝った!? 俺か!? ベリウスか!? ……バタッ!!
 俺はベリウスの方を振り向く。ベリウスが……倒れている。と言うことは。
「勝ったぞーーーー!!!!!!」
 俺は雄たけびを上げる。今思えばこれが始めての勝利なのかもしれない。アリアの時はアリアを助けるための勝利。ガーゴイル
のときは結局は倒せなかったというべきだろう。今が俺にとっての初勝利だ。
「やったよ〜♪ 倒したよ滝ちゃん♪」
「当然だ。俺のポテンシャルは最高潮だったんだ。……っていうのもあったけど最後のほうは何気にやばかった」
「?? どういうことなの??」
「最初は確実にダメージを与えられていたんだと思う。だけど途中から急に与えられなくなったと言うべきだろう。
理由とかはハッキリとはしてないけど……」
 理由か……。なんでなんだろう?? 最初は本当に手ごたえはあった。でもあの連続攻撃を仕掛けたあたりからだ。
なぜかベリウスはあまりダメージを受けていなかった。いやダメージはなかったと言ってもいいだろう。あれだけの連続攻撃
を受けていたはずなのに、その前の攻撃ではダメージを与えられたはずなのに。でもアデリアから受け取った剣ではダメージを
与えられた。そのおかげで倒せたのだが。あ〜なんかモヤモヤする〜!!
「滝、これ」
「これは……俺の剣か。それがどうした??」
「よく見てよ」
「じ〜っ……じ〜っ……見たけど。それが何??」
「ほらここ、刃先」
 だから見てるって……。それがなんだっていうんだよ。
「……あのときの会話忘れたんだ」
「あのときの会話? 何の話をしたんだっけ??」
「ほら思い出して。ここに来る前、神聖なる大地から時空の歪に入って閉鎖空間を抜けている途中のことだよ」
 閉鎖空間を抜けてる途中の会話か……。どんなんだったろうか……。

 十魔の力で時空の歪から閉鎖空間を通って聖なる焔に行き着くまでの会話である。(設定としては、アデリアはまだ元に戻っていない。
この会話の続きがこの話の最初の部分につながる。)
「やっぱりなれないな、この空間は。え〜と……閉鎖空間だっけか」
「こんなに歩いても時間たってないんだもんね。不思議な感じだよね」
「これをいろんなところで活用できればいいのだが……」
「アデリアはなんかすごいこと考えてるし。まぁ確かに使いたいときに使えれば確かに便利だよな。俺がもう少し真月の血
を使いこなせればいいんだけどな。そうしたら、ここを一気に抜けられるかも。」  俺達は今閉鎖空間内にいる。またも長い距離を歩くわけだ。時間は経たないけどね。これも十魔情報だが……まず! 疲れない!
 時間が動かないから実際は歩いていないと言うことになるらしい。だからここでの行動は全て無かったと言うことになるということ
なのだ。それに技術があればすぐに出たいところにもいけるらしい。今の俺には技術が無いから無理みたいだけど。
 ちなみにこれは真月の血を受け継ぐ者のみができるらしい。俺もできるようになれば楽なのだが。まぁそんなこと言っても今は
歩くしかないんだけどな。
「そういえば滝、剣を貸してみろ」
「ああいいけど、どうするんだ??」
 そう言いつつアデリアに剣を渡した。俺の剣がかっこいいから自分のと交換とか……そんなわけ無いよな。
「やはり刃こぼれしている」
「刃こぼれ?? 滝ちゃん何かやったの??」
「いや、何もしてないって。いつなったんだろう……」
 思い当たるとしては……戦闘中? 他になんかあったっけかな……。う〜ん……。
「おそらくガーゴイルと戦ったときだろう。あいつは石の様に固かったみたいだから刃こぼれ位しててもおかしくは無いだろう」
 ガーゴイルか。なるほどね。そういえばあいつは石みたいな奴だったから石を切ってるのと同じものだったかもしれない。
 そう考えると剣の刃こぼれも納得がいくな。
「それは戦闘できないくらいに刃こぼれしてるのか?」
「いや……そんなことは無い。ただ次の戦闘では……強力な魔物が出てきたときには危険かもしれない。まぁそんなに何度も
何度も強い奴は出てこないとは思うがな。」
 なら安心だな。次の街に着くかどっかに行商人とかいるだろうし、何とかなるだろう。
「あっ! 滝ちゃん、アデリア光が見えてきたよ」
(ここから3話の初めにつながる。一応)

「刃こぼれ……」
「そう刃こぼれ」
「そういえば滝ちゃんとアデリアが話してたね」
 え〜と、う〜んと……。
「思い出した??」
「ハッキリと思い出した。つうことは……俺がすんなり勝てなかった理由は……」
「刃こぼれが原因ってことだね滝ちゃん」
 ……うわーーーっ。俺は自分のミスで! 刃こぼれのせいで! しかも……それに気づかなかったのか!! そんな……。
 俺は……俺は……一体……。
「か、かっこわるい……。情けない……」
 あ〜……なんか踏んだりけったりかも。俺のテンションは……ガクッ!!! っと落ちた。穴があったら入りたいとはこんなとき
に使うんだろうな……。マジで穴に入りたいよ……。
「滝……」
「えっ……?」
 アデリアは背中に覆いかぶさるように寄りかかってきた。
「全然カッコ悪くなんて無いよ。むしろカッコいいよ。私を助けてくれた、偽りの姿から救ってくれた。私にとってはすごく
輝いてるんだよ♪ 私はあのときに比べたらだいぶ変わっちゃったけど、滝や羽衣とすごした日々は残ってる。
いつまでも滝や羽衣と一緒にいたいと思うよ。フフッ♪ 前の私じゃこんなこと絶対に言わなかったんだろうね」
 アデリアはそう明るく語りかけてくれた。確かに前のアデリアじゃありえない喋りかただし、背中に寄りかかるなんてやらなかった
だろう。今の姿も前のアデリアと比べるとえらい違いだ。カッコイイからカワイイに変わったといえば分かりやすいだろうか。
 でもさっきの剣を渡してくれたときはカッコよさを感じた。今までのアデリアに過去のアデリアを足した感じかな?
 可愛さの中にカッコよさがある。たぶん過去で会ったあの少女が成長したら今のアデリアになるんだろうな。
 アデリアは……やさしいんだよな。
「ありがとう、アデリア。そうだよな。落ち込んでられないよな。俺達にはまだやることはたくさんあるしな。
アデリアを助けたのも事実だし自身を持っていくか!」
「そうだよ♪ 滝が助けてくれたたのは変わらない。前向いていこう」
 そう言って俺に手を差し出してくれる。立てるかどうかを探っているんだろう。つくづくアデリアって感じがしてきた。
 俺はアデリアの手につかまり立ち上がった。
「羽衣、アデリア、たぶん本番はここからだ。あの戦闘で俺は確実に力がついたと実感した」
「私もそうだよ〜。ベリウス相手に結構いけてたよ」
「私も自分に気づけた。本当の私の力が戻ってきた!」
「これから聖なる焔の内部に入ることになる。今更ながら迷いは無いよな??」
「滝ちゃんがいれば私は大丈夫だよ〜。」
「私も大丈夫。皆ファイトだよ♪」
「さあ……油断せずに行こう!!」
「「おおーー!!」」
 二人は元気に返事をする。これから賑やかになりそうだな♪

 今回のことで俺は色々と実感した。人はいろんな過去を持っている。アデリアや羽衣、もちろん俺も含めてだ。
 良い過去もあれば悪い過去もある。それは人それぞれ。過去は決して変わらない。消しようの無い事実。忘れようの無い事実。
 人は過去に縛られる。過去を捨てることなどできない。でも過去は己を前に進ませてくれる。過去が在って今がある。
 過去の無い者はいない。誰もが持っているもの。だから誰もが前に進める。進み方は異なるが確実に前進する。
 俺や羽衣のように何事もなく進む人。アデリアのように過去に縛られながら進む人。他にも過去とともに進む人など、
進み方は数え切れないほど多い。でも人間はなんだかんだ言っても過去を受け入れる。受け入れなければならない。
 受け入れられないものに待っているのは……死。受け入れられない人が自殺をしたりする。悲しい死に方。嫌な死に方。
 残されたものは酷く悲しむ。人が死ぬのはやはり悲しいものだ。死から逃れる方法など腐るほどある。
 もっとも簡単で誰にでもできるものも当然ある。誰かに相談する事。一番身近で簡単な方法だ。親、兄弟、友達、恋人。
 他にも相談する人など山のようにいる。何故そこにいたらないのか不思議である。一人で抱え込むとろくなことにならない。
 大体の人間は理解している。だけど誰にも相談できない。金銭問題、犯罪に関すること。他にも相談できないことはたくさん
あるだろう。
 それも解決方法はたくさんある。何故その方法を探さないのか? なぜそれを放置するような真似をするのか?
 ……誰もが強いわけではない。誰もが・・・乗り越えられるとは限らない。
 だったら……誰かと一緒にいれば良い。それは誰とでも良い。ただ一緒にいれば良い。自分は一人じゃない。
 一人では生きていけない。だから誰もが支えあって生きていく。それに気づいていないだけ。気づくことが大切だとは思わない。
 でも人は一人じゃない。それは早く気づいたほうがいいかもしれない。自分じゃ分からないとき、自分じゃ判断できないとき、
そんな時誰かに相談すれば良い。一緒にいる人に、全てを話せる人に。一緒にいる……仲間に!! そのための仲間。
助けあうための仲間。
 それに早く気づければ人は更なる成長を遂げられる。アデリアは気づいた。俺達に存在に気づいた。仲間に気づいた。
 だから本当のアデリアを取り戻せた。アデリアは自分に気づいた。だから更に前に進める。今まで以上に成長できる。
 俺達はともに前に進む。全てを乗り越えて進んでいく。俺達はまだまだ成長しないといけないのだから……。


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*注:自主制作な為、矛盾点や脱字、誤字などが存在しているかもしれません。そういった点があればお知らせいただけると幸いです。

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